迷宮から抜け出すには タイトルにあるアラスカとは、アラスカ州のことではなく、本書に登場する女の子の名前である。どんな子かというと、放埓で気まぐれで、ひじょうにアクティブ。趣味は読書で、寮の自室には凄まじい量の蔵書がある。早く死にたいと願いつ…
2017年もとうに2か月過ぎているのに、本稿は2016年刊行の書籍の極私的ベスト記事である。いや、昨年末にちゃんと投稿するつもりだったのだが、PCの不調やらなんやらですっかり忘れてしまっていた。 以下は2015年のベスト記事。 それはさておき、何を今さら………
言語を覚えた先の世界へ誘う書評集 私は海外文学が好きだが、語学はからっきしダメである。英語ですら怪しい。だが、海外文学を読んでいると、舞台となる国の言葉についてもついつい知りたくなってしまう。 そんなわけで、語学を学びたいとよく思うのだが、…
※本記事は2016年11月6日付産経新聞読書面に掲載された書評の転載です。 虚実入り交じる森をゆく 1950年、免疫学者のエイブラハム・ノートン・ペリーナ博士は、南洋ミクロネシアにあるウ・イヴ諸島のイヴ・イヴ島で、未知の部族と奇病に遭遇する。この疾…
※本稿は「週刊読書人」2016年6月17日号に掲載された書評の転載です。 著者から野枝への恋文 本書は、大正時代のアナキスト大杉栄のパートナーで、女性解放運動の元祖といわれる伊藤野枝の評伝だ。ただし、物騒なタイトルから察せられるように、常識や道徳観…
肌感覚で突き付けられる歴史と現実 私は本書の主人公ベルンハルト(ベルニー)・グンターの追っかけファンである。ボクサー顔負けの強靭な腕力、ナチズムが闊歩するドイツでも屈しない精神力、いかなる時でも忘れない皮肉……。だから、グンター・シリーズの新…
※本記事は2016年6月5日付産経新聞読書面に掲載された書評の転載です。 コミカルな「継承」の物語 「才能(ギフト)はときに、拒むことのできないものである。」 本書の主人公トニ・ビーチャムの母エレナの墓石に刻まれた言葉だ。長女であるトニは冒頭、母の…
小学生のとき、臨海学習として、2泊3日で三河湾のとある島に渡ったことがある。見渡す限り山ばかりの長野県で暮らしてきた私にとって、四方を海に囲まれた島での生活は、なかなか不思議な体験であった。潮風、日焼けした島の住民、見慣れない鳥や昆虫、眼前…
ドローンが溶け込んだ未来で 昨今世間の耳目を集める無人航空機ドローン。メディアで有用性やら問題点やら盛んに報道されているが、では実際問題として、このドローンは今後どのような影響を及ぼしていくのか? そんなクエスチョンに答える本書は、タイトル…
※本記事は2016年2月28日付産経新聞読書面に掲載された書評の転載です。 窮地で結ばれた信頼関係 獄塀全壊。大正12年9月1日の関東大震災によって横浜刑務所が陥った窮状である。家屋の倒壊や広がる大火災で横浜中が地獄絵図と化すなか、構内にも火の手が…
思わぬことを頼まれたり、五年使っていたパソコンが壊れたりして、丸三ヶ月もブログを放置してしまいました。書評ばっかりなので訪問者はもともと多くないですが、それでもわりと見ている人がいるようなので、来月からなるべく定期更新しようと思います。 以…
昨日に引き続き、2015年ベスト本の記事である。本記事では、海外文学(ミステリ以外)、ノンフィクション、そして私が偏愛する本を紹介する。 海外文学(ミステリ以外) ベスト5 1位 『神の水』 パオロ・バチガルピ 中原尚哉訳 新ハヤカワSFシリーズ 2位 …
早いもので2015年も残すところわずかとなり、雑誌各誌では年末恒例の書籍ランキングが賑わいを見せている。私個人、今年は産経新聞にちょくちょく書評を寄せるようになったためか、どの本がランキング入りしたかより、どの評論家が何の本に投票したかに興味…
※本記事は2015年12月13日付産経新聞読書面に掲載された書評に補遺を加えたものです。 物語は、北海道の山間の集落で育った一人の青年が、十七歳のとき、放課後の体育館で、ピアノが「森の匂い」のする音色を放つのを聞いたことに始まる。鍵盤を押すと、羊毛…
のぞき男の私小説? まるで存在感のない人間がいる。ごく一般的な容姿容貌を持ち、いつも静かで、周りの景色に溶け込み、波長を合わせて目立たぬよう振る舞う。本書の主人公ヘミングはそういう、学校や職場に一人はいそうなヤツである。 だが彼に全く特徴が…
生き様を決めるとき 努力のモチベーションの一つは、真っ当に評価されることである。この短篇集の主人公たちはみな、自身の境遇やコンプレックスにめげず、芸術や文芸、学問の世界でひたすらに才能を燃やして己が道を進む。 しかし、それらの世界もまた清ら…
人智及ばぬ領域を濃厚に描く 身体の頑強な青年がひとり、雪の広がる平野で泣いている。傍らにいる逞しい馬が、青年の眼からこぼれる涙を舐める。青年の名は捨造。開拓民として北海道へ向かう道中、母から渡された壮絶な手紙を読み、その衝撃に、感情を抑えき…
少し前に、Twitterで「#本棚の10冊で自分を表現する」なるハッシュタグが話題を集めていた。詳しくは以下のリンクからわかるが、自分ならどんな10冊だろうと、本棚を探っていたところ、偶然にも、中学から高校時代にかけてつけていた読書記録を発見し、当時…
不死の存在めぐる大冒険SF 本書は、1963年トリノ生まれのイタリア人作家ルカ・マサーリによる、元飛行士マッテオ・カンピーニ三部作の第二作である。2013年に刊行された『時鐘の翼』の続編にあたるが、完全に独立した作品なのでこの作から読んでも問題はない…
※本記事は2015年9月27日付産経新聞読書面に掲載された書評に補遺を加えたものです。 www.sankei.com 3度の捜査で甦る真実 1937年1月の北京。凍てつく寒さの中、狐の精が棲むといわれる望楼・狐狸塔の下で、若い女性の惨殺死体が発見された。身元は、北京在…
宇宙人によるバルセローナふれあい報告書 オリンピックを二年後に控えた1990年8月のバルセローナに、二人組の地球外生命体が現れる。任務は、人間社会への潜入調査。肉体を持たない形(純粋知性)である彼らは、目立たぬよう人間の姿に変える必要があった。…
想像を絶する冤罪を暴いたジャーナリスト 本書に関しては「その後」から紹介したほうが良さそうだ。 去る2014年3月19日、スウェーデン・ファールンの精神科病棟にいたある男の釈放がニュースとなった。彼の名はストゥーレ・ベルグワール、またの名をトマス・…
水の都で繰り広げられる三人の暗闘 雪舞うヴェネツィアの夜。教会の石段に、奇妙な女性の死体が流れ着いた。頭部に二つの銃創。カトリックの女性には許されない司祭の恰好。そして、腕には不気味な紺色のタトゥー。すべてが、尋常ならざる事件であることを示…
良い文章を書きたいと願って 書いた文章をさらすのは、いつになっても慣れない。文章には書き手の人となりがあらわれる。自分のありのままの姿をさらけだしているようなものだ。どう読まれるか、ちゃんと伝わるか、変なことを書いていないかと、書いている最…
「神の視座」から見るとは およそ半世紀前、人類は初めて月に降り立った。米ソが宇宙開発競争に明け暮れていたこの時代、宇宙へ飛び立った宇宙飛行士は百人あまり。漆黒の宇宙に浮かぶ地球を見て、彼らは、何を感じ、どんなインパクトを受け、何が変化したの…
英国ゴシックホラーを伝える怪異18篇 昨今巷で話題となる怖い話と言えば、やたら猟奇的であったり、奇を衒ったり、脅かすことばかりに執心していたりと、不必要なほど扇情的なものが多い。しかし、怖い話の元祖とでも言うべき怪奇現象や幽霊の類が、科学の発…
ネットではわからない真実を探す旅 エリア51、ロズウェルUFO墜落事件、エスタンジア、シャンバラ、ヒマラヤの雪男……。オカルトマニアや『Xファイル』ファンが嬉々として反応する言葉だ。本稿で紹介する二冊は、Webサイト「X51.ORG」の管理人である著者が、20…
今年も書店に出版各社の「夏の100冊」が並び、賑わいを見せている。とはいえ、夏にフェアをやらない版元もあれば、そもそもそんなフェア自体めったに実施しない(できない)版元もある。そこで、文庫限定で、そういった版元の作品と、今年の新潮文庫・角川文…
郷愁覚える上質な台湾文学 最近、東アジア文学が注目を集めている。例えば、今年の3月発表のTwitter文学賞海外部門第一位『愉楽』は中国現代文学、4月に授賞式が開催された第一回日本翻訳大賞受賞作『カステラ』は韓国文学であった。両賞とも、まだまだ知名…
予測不能のヤングアダルト小説 海で溺れ、岩礁に激しく打ちつけられて死んだ16歳の少年セス。しかし、目を覚ますと、全く見知らぬ町の道路で倒れていた。体中に包帯のような白い布が巻かれ、所々に金属片が取りついた状態で。周囲を見渡しても、車の往来はお…