活字耽溺者の書評集

好きな本を自由気ままに書評するブログ。

島をとにかく空想(妄想)する5冊

 小学生のとき、臨海学習として、2泊3日で三河湾のとある島に渡ったことがある。見渡す限り山ばかりの長野県で暮らしてきた私にとって、四方を海に囲まれた島での生活は、なかなか不思議な体験であった。潮風、日焼けした島の住民、見慣れない鳥や昆虫、眼前に広がる水平線、奇妙な形をした近隣の島々……。

 未知の歴史や生活様式に触れる瞬間は、成人した今でもワクワクする。しかし、私はものぐさかつ空想大好き人間なので、本でその好奇心を満せてしまう。幸いなことに、近年は空想がはかどるステキな「島」本がたくさん出ており、うれしいかぎりである。本稿ではそんな、ちょっと変わった「島ガイドブック」を5冊紹介する。

 

  • 島の生物を想う

そもそも島に進化あり』 川上和人著 技術評論社

そもそも島に進化あり (生物ミステリー)

 本書は、小笠原諸島で20年間にわたって鳥類研究に取り組んできた著者による研究報告書……ではなく、島の生き物たちへの愛を語った生物ミステリー・エッセイである。島の定義に始まり、島に生物が根付き進化していくプロセスから外来種の脅威に至るまでを、軽妙に語っていくのが愉快だ。「ジョークを挟まないと死んでしまうのか!」とツッコミたくなるほどネタが詰まっているのも読みところである。前著『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』も合わせてぜひ。

 

  • 日本の秘島を想う

秘島図鑑』 清水浩史著 河出書房新社

秘島図鑑

 周囲が絶海だったり、住民がいなかったり、アクセスが存在しなかったりする、行くことが困難を極める島――秘島。本書は日本のそんな「行けない」島々の歴史と逸話を集めた秘島ガイドブック(カラー写真つき)である。女人禁制で、毎年一日だけ男性が渡れる神聖な島・沖ノ島。太平洋戦争の激戦地・硫黄島。伊豆諸島の最南端、大海原にそびえる急峻な岩・孀婦岩。……人間社会と完全に切り離された弧絶感と、かつて起きた島の栄枯盛衰ドラマに、胸が高まる。

 

  • 幻の島々を想う

地図から消えた島々』 長谷川亮一著 吉川弘文館(歴史文化ライブラリー)

地図から消えた島々: 幻の日本領と南洋探検家たち (歴史文化ライブラリー)

「幻の島」「地図から消えた島」と聞くと、ロマンティックな想像をせずにはいられない。が、本書は正確に言うならば、「地図上には公式に存在したが、やがて非実在だと判明した島々」の謎と、近代日本の南方進出の歴史に迫った学術書である。大日本帝国による領有宣言が出されたが1946年に存在を抹消された中ノ鳥島、探検家が血眼になって探し続けたが発見されないグランパス島など、数多の山師たちの欲望の残滓がはかなく、そして面白い。

 

  • 世界の秘島を想う

奇妙な孤島の物語』 ユーディット・シャランスキー著 鈴木仁子訳 河出書房新社

奇妙な孤島の物語:私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島

 世界中に点在する50の孤島について書かれた本。写真はなく、島の地図と短い解説が添えられているのみ。これは、著者が「地図は具体的であるとともに、抽象的なものである」として、読者の想像力を喚起させるようにしたためである(地図も装幀も著者の手による)。小説ともエッセイともいえない簡潔な文章で綴られる奇習や奇病、乱獲、虐殺、災害といった島の沿革と人間の営みの数々が、非日常へと読む者を誘う。待っているのは至福の読書体験だ。「もっとも美しいドイツの本」受賞(2009年)。

 

  • 異世界の島々を想う

夢幻諸島から』 クリストファー・プリースト著 古沢嘉通訳 新ハヤカワSFシリーズ

夢幻諸島から (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 そこは、時間の歪みにより精確な地図作成が不可能な世界の、「北大陸」と「南大陸」の間の赤道上に存在する「夢幻諸島」……。無論これは架空の世界で、本書は英国SF界を代表する作家クリストファー・プリーストによる連作短篇集である。異世界版「島」ガイドブックといった趣があるが、読み進めていくうちに他の篇との重なりや事実認識の違いが明らかになっていくのが面白い。島の風景描写も秀逸で、想像を掻き立ててやまない。

 

 以上、創作も史実もごちゃ混ぜで紹介したが、空想好きにとってそこはさして重要ではないので、ご容赦ください……。

 

そもそも島に進化あり (生物ミステリー)

そもそも島に進化あり (生物ミステリー)

 

 

秘島図鑑

秘島図鑑

 

 

地図から消えた島々: 幻の日本領と南洋探検家たち (歴史文化ライブラリー)

地図から消えた島々: 幻の日本領と南洋探検家たち (歴史文化ライブラリー)

 

 

奇妙な孤島の物語:私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島

奇妙な孤島の物語:私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島