活字耽溺者の書評集

好きな本を自由気ままに書評するブログ。

ノンフィクション・人文書・研究書

【書評】孤独に死にたくなければ、自分から胸襟を開くほかない『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(菅野久美子/角川新書)

※この記事はHONZからの転載です。 孤独に死にたくなければ、自分から胸襟を開くほかない この著者の本を読むのは初めてではない。なので、怖さはある程度予測できた。それでも、幾度となく背筋が凍る思いがした。この本で語られている現実は、人生の選択にお…

【書評】『ラマレラ 最後のクジラの民』(ダグ・ボック・クラーク/上原裕美子訳/NHK出版)

※この記事は週刊読書人からの転載です。 躍動感と端正な心理描写が光る大著 本書の一場面、ある日のクジラ漁の終わり間際の引用から始めたい。 ヨセフは網をつかみ、肺いっぱいに空気を吸い込んで、真下の海に飛び込んだ。クジラの血で真っ赤になった海中は…

【書評】逃げ場なしの極寒、懐にジョークを携えて『南極で心臓の音は聞こえるか 生還の保証なし、南極観測隊』(山田恭平/光文社新書)

※この記事はHONZからの転載です。 逃げ場なしの極寒、懐にジョークを携えて 南極大陸。平均標高は2020メートルと高く、95パーセント以上が雪と氷に覆われた大地。内陸に行けば行くほど気温が低くなり、常時マイナス30℃を下回る。冬場には驚異のマイナス80℃を…

【書評】大志を抱かない生き方は許容されるか?『ドリーム・ハラスメント 「夢」で若者を追い詰める大人たち』(高部大問/イースト新書)

※この記事はHONZからの転載です。 大志を抱かない生き方は許容されるか? 本書は、大人たちの「夢を持て」「大志を抱け」という温かなアドバイスが数多の若者たちを苦しめている事実を剔出する一冊である。なんだそりゃ、軟弱すぎる、大袈裟だ、そんなわけな…

【書評】我々の祖先はいかに日本を目指したか? 知的妄想はかどる興奮の書『サピエンス日本上陸 3万年前の大航海』(海部陽介/講談社)

台湾から与那国島へ、3万年前の大冒険を再現する 知的妄想を喚起する本である。概説すると、3万年前、我々の祖先はいかにして日本列島を目指したか、仮説を重ね実際に実験航海を行い徹底的に検証したノンフィクションだ。舞台は台湾と与那国島の海峡約200キ…

【書評】陰謀論や疑似科学のあやしげな論理を見抜く『まどわされない思考』(デヴィッド・ロバート・グライムス/長谷川圭訳/KADOKAWA)

※この記事はHONZからの転載です。 陰謀論や疑似科学のあやしげな論理を見抜く 著者の紹介から始めたい。デヴィッド・ロバート・グライムスは1985年アイルランド生まれの物理学者・ガン研究者で、BBCとアイルランド放送協会でコメンテーターとして活躍する傍…

【書評】今こそ、夢を楽しむべき時『夢の正体 夜の旅を科学する』(アリス・ロブ/川添節子訳/早川書房)

※本稿はHONZからの転載です。 今こそ、夢を楽しむべき時 まさかなるべく家に引きこもってろと叫ばれる時代が到来するとは思わなかった。評者はどちらかと言えばインドア人間なのでそこまで苦ではないが、あちこち出かけて買い物したり映画を観たり飲み歩いた…

【書評】知的興奮とぬくもりに満ちた漫画批評『ピノコ哀しや 手塚治虫『ブラック・ジャック』論』(芹沢俊介/五柳書院)

※本稿は週刊読書人からの転載です。 ※書影はこちらのページから。 知的興奮とぬくもりに満ちた漫画批評 本書は手塚治虫『ブラック・ジャック』をブラック・ジャックとピノコの恋愛物語として読み解いた一冊である。著者は文学や教育、家族問題をテーマに活躍…

【書評】依頼の77%は不倫調査! 奇々怪々な日本の不倫現場ノンフィクション『探偵の現場』(岡田真弓/角川新書)

※本稿はHONZからの転載です。 依頼の77%は不倫調査! 奇々怪々な日本の不倫現場ノンフィクション 探偵と聞くと、即座にユニークな名探偵たちの姿が思い浮かぶ。明晰な頭脳と驚異の観察眼を持ち、ヘビースモーカーで薬物中毒でもある世界一有名なあの顧問探偵…

【書評】『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』(大谷崇/星海社新書)

※この記事はHONZからの転載です。 人生がどうしようもないほど暗くむなしいときに悲観を楽しむ方法論 告白しよう。評者はずっと、なるべく他人と関わりたくないと祈りながら生きてきた。楽しいことも悲しいことも何も経験したいと思わない。誰かと揉めたり争…

【書評】『毒薬の手帖 クロロホルムからタリウムまで 捜査官はいかにして毒殺を見破ることができたのか』(デボラ・ブラム/五十嵐加奈子訳/青土社)

※本稿はHONZからの転載です。 それはダーティな1920年代アメリカで躍動する鉄人毒物学者二人の泥臭く革新的な功績 たまらなく渋くてカッコいい主人公の紹介から始めたい。表紙の写真左、試験管を持つちょっと神経質そうな男が化学者アレグザンダー・ゲトラー…

【書評】オタク文化や日常生活にあらわれる昆虫たちを研究する『大衆文化のなかの虫たち』(保科英人、宮ノ下明大/論創社)

オタク文化や日常生活にあらわれる昆虫たちを研究する 文化昆虫学……耳慣れない学問である。本書の序論によれば、一応昆虫学の一分野に数えられるが、正式な学問として産声を上げたのは1980年アメリカと歴史が浅く、しかも昆虫生態学や分類学の研究者が片手間…

【読書日記】2019年、今年の三冊

※この記事は週刊読書人からの転載です。 頭痛がするほど面白い難題 菅野久美子『超孤独死社会』(毎日新聞出版)は日本における孤独死の現状を凄絶な描写によって浮き彫りにするノンフィクション。亡くなった人々だけでなく遺族や特殊清掃人たちの人生にも光…

【書評】『宇宙から帰ってきた日本人』(稲泉連/文藝春秋)

※この記事はHONZからの転載です。 あの名著から36年、宇宙は近くなりにけり 1983年、知的欲求旺盛なあるジャーナリストが一冊の本を上梓した。それは、米ソが宇宙開発戦争に明け暮れていた時代、母なる地球を離れ、宇宙へと向かった飛行士たちの精神的変化に…

【書評】『古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。』(勝又基編/文学通信)

※この記事はHONZからの転載です。 難問と相対する白熱の全記録 今年1月14日、ツイッターである話題がトレンドを席巻した。「#古典は本当に必要なのか」というハッシュタグに連なる論争である。震源は明星大学人文学部日本文学科が主催した同名シンポジウムだ…

【読書日記】『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(大木毅/岩波新書)

第二次世界大戦中のドイツとソ連の戦争をコンパクトにまとめ上げた通史。この戦争のポイントは死亡者数が桁違いな点にある。ソ連は市民も含めて2700万人、ドイツは最大800万人。日本のそれが290万~310万人であることを踏まえると驚異的である。 ヒトラーは…

【書評】『デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する』(カル・ニューポート/池田真紀子訳/早川書房)

※この記事はHONZからの転載です。 膨大な弱いつながりを見つめ直し人間らしく生きる哲学 我々はSNSやソーシャルゲームに備わる巧妙で強い依存性のある仕掛けに心を絡め取られている――というのは、評者が先月レビューしたアダム・オルター『僕らはそれに抵抗…

【読書日記】『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治/新潮新書)

各所で話題沸騰の一冊。ツイッターで、全くもって三等分になっていないケーキの図(書影の帯にある図)が回ってきたのを見た方は多いかもしれない。この絵のとおり、非行に走る少年たちの多くは認知機能が小学校低学年ほどしかなく、それゆえに反省を促した…

【書評】みんなが手を伸ばしてくれるような題名に――『タイトル読本』(高橋輝次編/左右社)

みんなが手を伸ばしてくれるような題名に 命を削って生み落とした作品に、タイトルをつける。人によってはタイトルを先に決めないと創作が始まらないなんて方もいるが、何にしても題名は難所である。これがイマイチだと、どんなに中身が良くてもまず手を伸ば…

【書評】『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』(アダム・オルター/上原裕美子訳/ダイヤモンド社)

※この記事はHONZからの転載です。 誘惑に勝てないのは意志が弱いせいじゃない スティーブ・ジョブズは自分の子供たちにiPadを使わせていなかった――彼はその影響力をもって世界中に自社のテクノロジーを広める一方で、プライベートでは極端なほどテクノロジー…

【書評】『犯罪学大図鑑』(DK社編/宮脇孝雄、遠藤裕子、大野晶子訳/三省堂)

※この記事はHONZからの転載です。 暗い好奇心を満たす豪華絢爛の著 つらい話は聞きたくない。陰惨なニュースなどもっと見たくない。気持ちが沈んでしまうから。しかしながらその一方で、我々はついついネガティヴな情報に耳をそばだてたり、詳報を集めたりし…

【書評】『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』(山下泰平/柏書房)

※この記事はHONZからの転載です。 忘れ去られしカオスな物語群にどっぷり浸かる もうタイトルからして「なんじゃこりゃ」だが、読み終わっても「なんじゃこりゃ」である。でも面白いんだから書評するより仕方ない。本書(通称・まいボコ)を一言で説明するな…

【書評】『ネコ・かわいい殺し屋 生態系への影響を科学する』(ピーター・P・マラ、クリス・サンテラ/岡奈理子訳/築地書館)

※この記事はHONZからの転載です。 野良ネコへの愛情はリスクを孕む 本書を読む少し前、環境省による奄美大島のノネコ(野生化したネコ)への対策が議論を呼んでいるとのニュース記事を読んだ。ノネコが国の特別天然記念物であるアマミノクロウサギなどを捕食…

【書評】『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(菅野久美子/毎日新聞出版)

※この記事はHONZからの転載です。 つらく、悲しく、身近に迫る死 読み進めるのが苦しい一冊だった。登場する人々が長く抱えてきた生きづらさが、とても他人事に思えなかったからだ。壮絶な「現場」の描写も相まって、一読するだけでも相当な根気がいる本であ…

【書評】『9つの脳の不思議な物語』(ヘレン・トムスン/仁木めぐみ訳/文藝春秋)

※この記事はHONZからの転載です。 脳が脳自身を理解できた日はきっと最高にロマンティック 思われるかもしれないが、評者は自分の人生より他人の人生に興味がある。自分の中では考えもしなかった生き方や着眼点、思考法を知ることにえもいわれぬスリルを感じ…

【書評】『ぼくと数学の旅に出よう 真理を追い求めた1万年の物語』(ミカエル・ロネー/山本知子、川口明百美訳/NHK出版)

※この記事はHONZからの転載です。 「数」に秘められた歴史と驚異、そして情熱 告白するが、筆者は数学が嫌いだ。大がつくほどに。中学時代は試験で平均点付近と、なんとかついて行けていたが、高校入学以後は赤点・追試続き。もううんざりだと、大学の進路は…

【読書日記】『僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由』(稲泉連/文春文庫)

このブログをはじめてもう4年以上経つ。学生時代に、君の文章はお金になるから何か書いてみたらどうですかとすすめられたのが最初で、好き勝手書いているうち、新聞に寄稿させていただいたり、有名書評サイトのメンバーにお誘いいただいたりと、色々なお仕事…

【書評】ことばを編むとき、人間模様が見えてくる――『辞書編集、三十七年』(神永曉/草思社)

※この記事はHONZからの転載 です。 ことばを編むとき、人間模様が見えてくる 本書の帯に、心惹かれるこんな一文がある。 辞書編集とは“刑罰”である。 これは、『日本国語大辞典(日国)』の第二版編集作業中の1999年11月、小学館辞書編集部にふらりと現れた…

【書評】『「日本の伝統」という幻想』 藤井青銅/柏書房

※この書評はHONZからの転載です。 時代の変わり目を前にして 平成の終わりが近づいている。といっても、元号が変わるだけで、生活にドラスティックな変化が訪れるわけではない。が、それでも、平成の世、もっと言えば日本がたどってきた道のりに思いを馳せて…

【800字書評】汚い言葉は消え去るべきか――『悪態の科学 あなたはなぜ口にしてしまうのか』エマ・バーン/黒木章人訳/原書房

汚い言葉は消え去るべきか 世の中には、公の場で口にすべきでない言葉がある。日本語で言うなら「クソ」「ちくしょう」「クズ」「アホ」、英語で言うなら「fuck」「shit」「cunt」「bugger」「bitch」などがそうだ。こうした言葉を学校や家庭で教わってきた…