2018年刊
壮絶で高濃度な流転の旅 なんだか可愛らしいタイトルで、中身も300ページほどとコンパクトだが、話はなかなかにハードな小説である。だが読み終えたあと、思いもかけない境地に至らされ、運命的な出会いがあった日の帰り道のような陶酔した感覚がしばらく抜…
※この記事はHONZからの転載 です。 ことばを編むとき、人間模様が見えてくる 本書の帯に、心惹かれるこんな一文がある。 辞書編集とは“刑罰”である。 これは、『日本国語大辞典(日国)』の第二版編集作業中の1999年11月、小学館辞書編集部にふらりと現れた…
※この書評はHONZからの転載です。 時代の変わり目を前にして 平成の終わりが近づいている。といっても、元号が変わるだけで、生活にドラスティックな変化が訪れるわけではない。が、それでも、平成の世、もっと言えば日本がたどってきた道のりに思いを馳せて…
汚い言葉は消え去るべきか 世の中には、公の場で口にすべきでない言葉がある。日本語で言うなら「クソ」「ちくしょう」「クズ」「アホ」、英語で言うなら「fuck」「shit」「cunt」「bugger」「bitch」などがそうだ。こうした言葉を学校や家庭で教わってきた…
楽しい語りで疾駆する 人からたまに、どんな本が好きですか、と聞かれることがある。一口に本といっても千差万別なので、こうして書評を書いたり寄稿したりしておきながら返答に窮してばかりだったが、今なら基準の一つははっきりと言える。書き手が楽しんで…
ネットでは見えないものを追う 未知の不可抗力。1959年初めの冬、ソビエト連邦のウラル山脈で発生した遭難事故の最終報告書に載った「死亡原因」だ。亡くなったのは、ウラル工科大学の学生とOBから成る登山チーム9名。グループのリーダーの名前を取って「…
怒涛のハエ愛を食らうがよい 本書は多種多様なハエの生態を解説した本である。と同時に、ハエがとっても可愛く見えてくる一冊でもある。そんなバカな、と思われる向きが大多数だろうが、本当だ。なぜならば、著者の語り口がハエへの愛に満ち満ちているからだ…
※本稿はHONZからの転載です。 きわめて人間くさい動物園の物語 動物園業界には、「動物園人」という言葉があるらしい。動物や動物園のことを心から愛し、常に探究心と誇りを持って一生懸命動物園のために取り組む人のことを指し、時として人よりも動物相手の…
人生を変える贅沢ミステリ この本は、わたしの人生を変えた――。本書のプロローグにて、語り手の「わたし」がそんな述懐をする。読んだ後、それまでの棲み家を離れ、編集の仕事も辞め、多くの友人を失った、と。なんとも不気味でぞくぞくする忠告である。 そ…
※この記事はHONZからの転載です。 悲観に入れ込みすぎないように ニュース番組を見て憂鬱になる。新聞やインターネットの記事を読んでげんなりする。暗い内容ばかりだからだ。シリア情勢、温暖化、テロに凶悪犯罪、不況、所得格差、貧困、差別、少子化・高齢…
※この書評は2018年4月29日付産経新聞読書面からの転載です。 醜悪な心を書き尽くす 死者のような、慈悲深い無の微笑み――24歳のアイリーンが仕事中につけていた表情だ。彼女は内奥に秘めた激情を抑えるためにこの仮面をかぶり、内気で平凡な人間のふりをして…
※この記事は2018年4月14日発売の週刊読書人からの転載です。 数奇な運命を生き延びた若き歯科医の証言 1941年、ポーランドの小さな村に暮らしていた二一歳のユダヤ人歯科医学生の家に、魔の手が忍び寄る。ナチス・ドイツによる強制連行だ。父とともに収容所…