活字耽溺者の書評集

好きな本を自由気ままに書評するブログ。

週刊読書人書評

【書評】『ラマレラ 最後のクジラの民』(ダグ・ボック・クラーク/上原裕美子訳/NHK出版)

※この記事は週刊読書人からの転載です。 躍動感と端正な心理描写が光る大著 本書の一場面、ある日のクジラ漁の終わり間際の引用から始めたい。 ヨセフは網をつかみ、肺いっぱいに空気を吸い込んで、真下の海に飛び込んだ。クジラの血で真っ赤になった海中は…

【書評】知的興奮とぬくもりに満ちた漫画批評『ピノコ哀しや 手塚治虫『ブラック・ジャック』論』(芹沢俊介/五柳書院)

※本稿は週刊読書人からの転載です。 ※書影はこちらのページから。 知的興奮とぬくもりに満ちた漫画批評 本書は手塚治虫『ブラック・ジャック』をブラック・ジャックとピノコの恋愛物語として読み解いた一冊である。著者は文学や教育、家族問題をテーマに活躍…

【読書日記】2019年、今年の三冊

※この記事は週刊読書人からの転載です。 頭痛がするほど面白い難題 菅野久美子『超孤独死社会』(毎日新聞出版)は日本における孤独死の現状を凄絶な描写によって浮き彫りにするノンフィクション。亡くなった人々だけでなく遺族や特殊清掃人たちの人生にも光…

【書評】読者の頭脳と理解力が試される――『イヴリン嬢は七回殺される』(スチュアート・タートン/三角和代訳/文藝春秋)

※この記事は週刊読書人からの転載です。 読者の頭脳と理解力が試される一冊 森の中にたたずむ古めかしい屋敷を想像していただくところからはじめよう。プール、厩舎、湖、ボート小屋、野外音楽堂に家族墓地まで備えるほどの広大な敷地。その日は仮面舞踏会が…

『アウシュヴィッツの歯科医』 ベンジャミン・ジェイコブス/上田祥士監訳/向井和美訳/紀伊國屋書店

※この記事は2018年4月14日発売の週刊読書人からの転載です。 数奇な運命を生き延びた若き歯科医の証言 1941年、ポーランドの小さな村に暮らしていた二一歳のユダヤ人歯科医学生の家に、魔の手が忍び寄る。ナチス・ドイツによる強制連行だ。父とともに収容所…

『あのころのパラオをさがして 日本統治下のパラオを生きた人々』 寺尾紗穂/集英社

※この記事は10月13日発売の週刊読書人からの転載です。 過ぎ去った大きなうねりにゆれる心 南洋に浮かぶ島国パラオ。パリ講和会議直後の一九二〇年から太平洋戦争終結の一九四五年まで、この国は日本の委任統治領、すなわち植民地であった。南洋庁が設置され…

『昭和声優列伝 テレビ草創期を声でささえた名優たち』 勝田久/駒草出版

※本稿は「週刊読書人」2017年4月14日号に掲載された書評の転載です。 若き声優志願者へ贈る言葉 今や声優は、若い人の間で高い人気を誇る職業の一つである。アニメ出演や洋画の吹き替え、ナレーションといった裏方仕事だけでなく、歌手となってコンサートを…

『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』 栗原康著 岩波書店

※本稿は「週刊読書人」2016年6月17日号に掲載された書評の転載です。 著者から野枝への恋文 本書は、大正時代のアナキスト大杉栄のパートナーで、女性解放運動の元祖といわれる伊藤野枝の評伝だ。ただし、物騒なタイトルから察せられるように、常識や道徳観…