活字耽溺者の書評集

好きな本を自由気ままに書評するブログ。

SF・ホラー・幻想

【新刊書評】怪奇現象組み込む社会派ミステリ『踏切の幽霊』(高野和明/文藝春秋)

昔から、社会派ミステリが好きである。現実の地名とその風景描写から浮かび上がる世情や登場人物の人間くささを嗅ぎ取るのがこのうえなく愉しいのだ。魅力的な謎が絡めば完徹確定である。 本作の舞台も謎も惹かれる設定だ。1994年の冬、箱根湯本と新宿を結ぶ…

『決定版 2001年宇宙の旅』 アーサー・C・クラーク/伊藤典夫訳/ハヤカワ文庫SF

※この記事はシミルボンからの転載です。 驚異の世界に挑む想像力 宇宙は、想像を絶する空間である。幾多の創作者が、宇宙をモチーフに作品を創り上げてきた。だが、観測技術が発達するにつれ、創作を軽く凌駕するデータや桁外れな事実が明らかになり、真っ向…

【週刊800字書評】『時間のないホテル』 ウィル・ワイルズ/茂木健訳/東京創元社

閉鎖的無限回廊をゆく娯楽SF 原題は「THE WAY INN」で、本書に登場するホテルの名称である。どんなホテルか解説すると、世界各地に五百軒以上店舗を構える有数のホテルチェーンで、客室は百室以上。建物全体に最新設備がそなわり、巨大で魅力あふれる建築物…

【産経新聞より転載】 『森の人々』 ハニヤ・ヤナギハラ著、山田美明訳 光文社

※本記事は2016年11月6日付産経新聞読書面に掲載された書評の転載です。 虚実入り交じる森をゆく 1950年、免疫学者のエイブラハム・ノートン・ペリーナ博士は、南洋ミクロネシアにあるウ・イヴ諸島のイヴ・イヴ島で、未知の部族と奇病に遭遇する。この疾…

『世の終わりの真珠』 ルカ・マサーリ 久保耕司訳 シーライトパブリッシング

不死の存在めぐる大冒険SF 本書は、1963年トリノ生まれのイタリア人作家ルカ・マサーリによる、元飛行士マッテオ・カンピーニ三部作の第二作である。2013年に刊行された『時鐘の翼』の続編にあたるが、完全に独立した作品なのでこの作から読んでも問題はない…

『ゴースト・ハント』 H・R・ウェイクフィールド 鈴木克昌 他 訳 創元推理文庫

英国ゴシックホラーを伝える怪異18篇 昨今巷で話題となる怖い話と言えば、やたら猟奇的であったり、奇を衒ったり、脅かすことばかりに執心していたりと、不必要なほど扇情的なものが多い。しかし、怖い話の元祖とでも言うべき怪奇現象や幽霊の類が、科学の発…

『朝のガスパール』筒井康隆 新潮文庫

虚構と現実の壁を破壊する「読者参加小説」 ご注意願いたいのは、この文章がすでに小説の一部であるということだ。つまり、虚構「朝のガスパール」はすでに始まっているのである。…… (中略) 読者にはこの虚構に参加していただきたい。いや。展開にかかわっ…

『影が行く ホラーSF傑作選』P・K・ディック、D・R・クーンツ他 中村融編訳 創元SF文庫

「ホラーSF」を骨の髄まで楽しむアンソロジー 隊員服を着込んだブロンズ色の男が、少量の血液を垂らしたシャーレに、火炎放射器で熱した針を近づけていく。周りには、成り行きを食い入るように見つめる男たちと、縄で縛られた者が三人ばかり。外は極寒の南極…

『縮みゆく男』リチャード・マシスン 本間有訳 扶桑社ミステリー

生きるとは何か問いかけるSFホラー 恐怖と絶望に震えていたはずなのに、読後感はすがすがしい。本書は、レイ・ブラッドベリから賛辞を受け、スティーヴン・キングやディーン・クーンツに多大なる影響を与えた、アメリカを代表するSF作家リチャード・マシ…