活字耽溺者の書評集

好きな本を自由気ままに書評するブログ。

2019年刊

【書評】『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』(大谷崇/星海社新書)

※この記事はHONZからの転載です。 人生がどうしようもないほど暗くむなしいときに悲観を楽しむ方法論 告白しよう。評者はずっと、なるべく他人と関わりたくないと祈りながら生きてきた。楽しいことも悲しいことも何も経験したいと思わない。誰かと揉めたり争…

【書評】『毒薬の手帖 クロロホルムからタリウムまで 捜査官はいかにして毒殺を見破ることができたのか』(デボラ・ブラム/五十嵐加奈子訳/青土社)

※本稿はHONZからの転載です。 それはダーティな1920年代アメリカで躍動する鉄人毒物学者二人の泥臭く革新的な功績 たまらなく渋くてカッコいい主人公の紹介から始めたい。表紙の写真左、試験管を持つちょっと神経質そうな男が化学者アレグザンダー・ゲトラー…

【書評】生きていく知恵秘められ『聖者のかけら』(川添愛/新潮社)

※本稿は産経新聞からの転載です。 生きていく知恵秘められ 時は13世紀、カトリック修道士で死後、聖人に列せられた聖フランチェスコの死没から四半世紀後のイタリア・アッシジ近郊。27歳の若き修道士ベネディクトは、院長から密命を帯びて、14歳のとき…

【書評】オタク文化や日常生活にあらわれる昆虫たちを研究する『大衆文化のなかの虫たち』(保科英人、宮ノ下明大/論創社)

オタク文化や日常生活にあらわれる昆虫たちを研究する 文化昆虫学……耳慣れない学問である。本書の序論によれば、一応昆虫学の一分野に数えられるが、正式な学問として産声を上げたのは1980年アメリカと歴史が浅く、しかも昆虫生態学や分類学の研究者が片手間…

【読書日記】2019年、今年の三冊

※この記事は週刊読書人からの転載です。 頭痛がするほど面白い難題 菅野久美子『超孤独死社会』(毎日新聞出版)は日本における孤独死の現状を凄絶な描写によって浮き彫りにするノンフィクション。亡くなった人々だけでなく遺族や特殊清掃人たちの人生にも光…

【書評】『宇宙から帰ってきた日本人』(稲泉連/文藝春秋)

※この記事はHONZからの転載です。 あの名著から36年、宇宙は近くなりにけり 1983年、知的欲求旺盛なあるジャーナリストが一冊の本を上梓した。それは、米ソが宇宙開発戦争に明け暮れていた時代、母なる地球を離れ、宇宙へと向かった飛行士たちの精神的変化に…

【書評】『古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。』(勝又基編/文学通信)

※この記事はHONZからの転載です。 難問と相対する白熱の全記録 今年1月14日、ツイッターである話題がトレンドを席巻した。「#古典は本当に必要なのか」というハッシュタグに連なる論争である。震源は明星大学人文学部日本文学科が主催した同名シンポジウムだ…

【書評】読者の頭脳と理解力が試される――『イヴリン嬢は七回殺される』(スチュアート・タートン/三角和代訳/文藝春秋)

※この記事は週刊読書人からの転載です。 読者の頭脳と理解力が試される一冊 森の中にたたずむ古めかしい屋敷を想像していただくところからはじめよう。プール、厩舎、湖、ボート小屋、野外音楽堂に家族墓地まで備えるほどの広大な敷地。その日は仮面舞踏会が…

【読書日記】『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(大木毅/岩波新書)

第二次世界大戦中のドイツとソ連の戦争をコンパクトにまとめ上げた通史。この戦争のポイントは死亡者数が桁違いな点にある。ソ連は市民も含めて2700万人、ドイツは最大800万人。日本のそれが290万~310万人であることを踏まえると驚異的である。 ヒトラーは…

【書評】『デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する』(カル・ニューポート/池田真紀子訳/早川書房)

※この記事はHONZからの転載です。 膨大な弱いつながりを見つめ直し人間らしく生きる哲学 我々はSNSやソーシャルゲームに備わる巧妙で強い依存性のある仕掛けに心を絡め取られている――というのは、評者が先月レビューしたアダム・オルター『僕らはそれに抵抗…

【読書日記】『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治/新潮新書)

各所で話題沸騰の一冊。ツイッターで、全くもって三等分になっていないケーキの図(書影の帯にある図)が回ってきたのを見た方は多いかもしれない。この絵のとおり、非行に走る少年たちの多くは認知機能が小学校低学年ほどしかなく、それゆえに反省を促した…

【書評】みんなが手を伸ばしてくれるような題名に――『タイトル読本』(高橋輝次編/左右社)

みんなが手を伸ばしてくれるような題名に 命を削って生み落とした作品に、タイトルをつける。人によってはタイトルを先に決めないと創作が始まらないなんて方もいるが、何にしても題名は難所である。これがイマイチだと、どんなに中身が良くてもまず手を伸ば…

【書評】『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』(アダム・オルター/上原裕美子訳/ダイヤモンド社)

※この記事はHONZからの転載です。 誘惑に勝てないのは意志が弱いせいじゃない スティーブ・ジョブズは自分の子供たちにiPadを使わせていなかった――彼はその影響力をもって世界中に自社のテクノロジーを広める一方で、プライベートでは極端なほどテクノロジー…

【書評】『犯罪学大図鑑』(DK社編/宮脇孝雄、遠藤裕子、大野晶子訳/三省堂)

※この記事はHONZからの転載です。 暗い好奇心を満たす豪華絢爛の著 つらい話は聞きたくない。陰惨なニュースなどもっと見たくない。気持ちが沈んでしまうから。しかしながらその一方で、我々はついついネガティヴな情報に耳をそばだてたり、詳報を集めたりし…

【書評】独善的な男の人生省察『イタリアン・シューズ』(ヘニング・マンケル/柳沢由実子訳/東京創元社)

※この記事は産経新聞からの転載です。 独善的な男の人生省察 世捨て人。嫌なことが続いたり、人間関係に悩んだりしていると、社会との繋がりを一切遮断するそうした生き方に憧れる瞬間がある。 しかし、困難から逃げても人生が好転するとは限らず、むしろ傷…

【書評】『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』(山下泰平/柏書房)

※この記事はHONZからの転載です。 忘れ去られしカオスな物語群にどっぷり浸かる もうタイトルからして「なんじゃこりゃ」だが、読み終わっても「なんじゃこりゃ」である。でも面白いんだから書評するより仕方ない。本書(通称・まいボコ)を一言で説明するな…

【書評】『ネコ・かわいい殺し屋 生態系への影響を科学する』(ピーター・P・マラ、クリス・サンテラ/岡奈理子訳/築地書館)

※この記事はHONZからの転載です。 野良ネコへの愛情はリスクを孕む 本書を読む少し前、環境省による奄美大島のノネコ(野生化したネコ)への対策が議論を呼んでいるとのニュース記事を読んだ。ノネコが国の特別天然記念物であるアマミノクロウサギなどを捕食…

【書評】『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(菅野久美子/毎日新聞出版)

※この記事はHONZからの転載です。 つらく、悲しく、身近に迫る死 読み進めるのが苦しい一冊だった。登場する人々が長く抱えてきた生きづらさが、とても他人事に思えなかったからだ。壮絶な「現場」の描写も相まって、一読するだけでも相当な根気がいる本であ…

【書評】『9つの脳の不思議な物語』(ヘレン・トムスン/仁木めぐみ訳/文藝春秋)

※この記事はHONZからの転載です。 脳が脳自身を理解できた日はきっと最高にロマンティック 思われるかもしれないが、評者は自分の人生より他人の人生に興味がある。自分の中では考えもしなかった生き方や着眼点、思考法を知ることにえもいわれぬスリルを感じ…

【書評】『ぼくと数学の旅に出よう 真理を追い求めた1万年の物語』(ミカエル・ロネー/山本知子、川口明百美訳/NHK出版)

※この記事はHONZからの転載です。 「数」に秘められた歴史と驚異、そして情熱 告白するが、筆者は数学が嫌いだ。大がつくほどに。中学時代は試験で平均点付近と、なんとかついて行けていたが、高校入学以後は赤点・追試続き。もううんざりだと、大学の進路は…