活字耽溺者の書評集

好きな本を自由気ままに書評するブログ。

2020年刊

【書評】げに恐ろしき、出版界の裏事情『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 こうして私は職業的な「死」を迎えた』(宮崎伸治/三五館シンシャ)

本書は、ベストセラー『7つの習慣 最優先事項』の訳で一躍売れっ子翻訳家になった著者が、出版社との様々なトラブルを経て業界に背を向けるまでの顛末を綴った、げに恐ろしきドキュメントだ。 驚くことに、名前こそ伏せてあるが、理不尽な目に遭わされた出版…

【書評】孤独に死にたくなければ、自分から胸襟を開くほかない『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(菅野久美子/角川新書)

※この記事はHONZからの転載です。 孤独に死にたくなければ、自分から胸襟を開くほかない この著者の本を読むのは初めてではない。なので、怖さはある程度予測できた。それでも、幾度となく背筋が凍る思いがした。この本で語られている現実は、人生の選択にお…

【書評】『ラマレラ 最後のクジラの民』(ダグ・ボック・クラーク/上原裕美子訳/NHK出版)

※この記事は週刊読書人からの転載です。 躍動感と端正な心理描写が光る大著 本書の一場面、ある日のクジラ漁の終わり間際の引用から始めたい。 ヨセフは網をつかみ、肺いっぱいに空気を吸い込んで、真下の海に飛び込んだ。クジラの血で真っ赤になった海中は…

【書評】逃げ場なしの極寒、懐にジョークを携えて『南極で心臓の音は聞こえるか 生還の保証なし、南極観測隊』(山田恭平/光文社新書)

※この記事はHONZからの転載です。 逃げ場なしの極寒、懐にジョークを携えて 南極大陸。平均標高は2020メートルと高く、95パーセント以上が雪と氷に覆われた大地。内陸に行けば行くほど気温が低くなり、常時マイナス30℃を下回る。冬場には驚異のマイナス80℃を…

【書評】大志を抱かない生き方は許容されるか?『ドリーム・ハラスメント 「夢」で若者を追い詰める大人たち』(高部大問/イースト新書)

※この記事はHONZからの転載です。 大志を抱かない生き方は許容されるか? 本書は、大人たちの「夢を持て」「大志を抱け」という温かなアドバイスが数多の若者たちを苦しめている事実を剔出する一冊である。なんだそりゃ、軟弱すぎる、大袈裟だ、そんなわけな…

【書評】我々の祖先はいかに日本を目指したか? 知的妄想はかどる興奮の書『サピエンス日本上陸 3万年前の大航海』(海部陽介/講談社)

台湾から与那国島へ、3万年前の大冒険を再現する 知的妄想を喚起する本である。概説すると、3万年前、我々の祖先はいかにして日本列島を目指したか、仮説を重ね実際に実験航海を行い徹底的に検証したノンフィクションだ。舞台は台湾と与那国島の海峡約200キ…

【書評】陰謀論や疑似科学のあやしげな論理を見抜く『まどわされない思考』(デヴィッド・ロバート・グライムス/長谷川圭訳/KADOKAWA)

※この記事はHONZからの転載です。 陰謀論や疑似科学のあやしげな論理を見抜く 著者の紹介から始めたい。デヴィッド・ロバート・グライムスは1985年アイルランド生まれの物理学者・ガン研究者で、BBCとアイルランド放送協会でコメンテーターとして活躍する傍…

【書評】今こそ、夢を楽しむべき時『夢の正体 夜の旅を科学する』(アリス・ロブ/川添節子訳/早川書房)

※本稿はHONZからの転載です。 今こそ、夢を楽しむべき時 まさかなるべく家に引きこもってろと叫ばれる時代が到来するとは思わなかった。評者はどちらかと言えばインドア人間なのでそこまで苦ではないが、あちこち出かけて買い物したり映画を観たり飲み歩いた…

【書評】知的興奮とぬくもりに満ちた漫画批評『ピノコ哀しや 手塚治虫『ブラック・ジャック』論』(芹沢俊介/五柳書院)

※本稿は週刊読書人からの転載です。 ※書影はこちらのページから。 知的興奮とぬくもりに満ちた漫画批評 本書は手塚治虫『ブラック・ジャック』をブラック・ジャックとピノコの恋愛物語として読み解いた一冊である。著者は文学や教育、家族問題をテーマに活躍…

【書評】依頼の77%は不倫調査! 奇々怪々な日本の不倫現場ノンフィクション『探偵の現場』(岡田真弓/角川新書)

※本稿はHONZからの転載です。 依頼の77%は不倫調査! 奇々怪々な日本の不倫現場ノンフィクション 探偵と聞くと、即座にユニークな名探偵たちの姿が思い浮かぶ。明晰な頭脳と驚異の観察眼を持ち、ヘビースモーカーで薬物中毒でもある世界一有名なあの顧問探偵…