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活字耽溺者の書評集

翻訳ミステリ、サスペンス、ノンフィクション等の書評。産経新聞書評欄に不定期で寄稿。

『昭和声優列伝 テレビ草創期を声でささえた名優たち』 勝田久/駒草出版

※本稿は「週刊読書人」2017年4月14日号に掲載された書評の転載です。 若き声優志願者へ贈る言葉 今や声優は、若い人の間で高い人気を誇る職業の一つである。アニメ出演や洋画の吹き替え、ナレーションといった裏方仕事だけでなく、歌手となってコンサートを…

【週刊800字書評】『ストーナー』 ジョン・ウィリアムズ/東江一紀訳/作品社

※この記事はシミルボンからの転載です。 地味でも平凡でも生きていく 2015年に行われた第1回日本翻訳大賞の読者賞受賞作。その前年に亡くなった翻訳家・東江一紀氏の最後の翻訳書でもある。ストーリーは、簡単に言えば、平凡な男が大学で文学の魅力にとりつ…

【週刊800字書評】『実況・料理生物学』 小倉明彦/文春文庫

料理しながらゆるく楽しく学ぶ! 金曜日16時半すぎ、大阪大学豊中キャンパス、理学部学生実習室。15名ほどの学生が講義を受けている。科目名は「料理生物学入門」。今日は小麦粉を捏ねる作業が中心だ。 P(教授) 生地を寝かせている間に、今の作業が、小麦…

【週刊800字書評】『雪盲 SNOW BLIND』 ラグナル・ヨナソン/吉田薫訳/小学館文庫

アイスランド最果ての地の群衆劇 舞台の紹介から始めよう。 シグルフィヨルズルは、アイスランド北部の最果てにある人口1200人ほどの港町。首都レイキャヴィークより北極圏に近く、環状に連なる山とフィヨルドに囲まれて、空はいつも雲に覆われ灰色にくすん…

【週刊800字書評】『時間のないホテル』 ウィル・ワイルズ/茂木健訳/東京創元社

閉鎖的無限回廊をゆく娯楽SF 原題は「THE WAY INN」で、本書に登場するホテルの名称である。どんなホテルか解説すると、世界各地に五百軒以上店舗を構える有数のホテルチェーンで、客室は百室以上。建物全体に最新設備がそなわり、巨大で魅力あふれる建築物…

【週刊800字書評】『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』 川上和人/新潮社

ボケを挟まないと死んじゃう鳥類学者 文筆家ではないのに、才気煥発な文を書く人がいる。著者もその一人であろう。簡単にプロフィールを書くと、本業は森林研究所の研究者。鳥類学を専門とし、テレビの自然番組や図鑑の監修を多く手掛けている。また、主な調…

【週刊800字書評】『十三世紀のハローワーク』 グレゴリウス山田/一迅社

膨大な資料で裏打ちされた力作解説本 本書の帯には、ゲームクリエイターの松野泰己氏が「これ、パクってイイ?」とコメントを寄せている。松野氏は、『オウガバトルシリーズ』や『FFⅫ』といった大作ゲームのシナリオ・舞台構築に携わった人物で、神話や歴史…

【週刊800字書評】『アラスカを追いかけて』 ジョン・グリーン/金原瑞人訳/岩波書店

迷宮から抜け出すには タイトルにあるアラスカとは、アラスカ州のことではなく、本書に登場する女の子の名前である。どんな子かというと、放埓で気まぐれで、ひじょうにアクティブ。趣味は読書で、寮の自室には凄まじい量の蔵書がある。早く死にたいと願いつ…

極私的2016年ベスト10冊

2017年もとうに2か月過ぎているのに、本稿は2016年刊行の書籍の極私的ベスト記事である。いや、昨年末にちゃんと投稿するつもりだったのだが、PCの不調やらなんやらですっかり忘れてしまっていた。 以下は2015年のベスト記事。 それはさておき、何を今さら………

『寝るまえ5分の外国語 語学書書評集』 黒田龍之助 白水社

言語を覚えた先の世界へ誘う書評集 私は海外文学が好きだが、語学はからっきしダメである。英語ですら怪しい。だが、海外文学を読んでいると、舞台となる国の言葉についてもついつい知りたくなってしまう。 そんなわけで、語学を学びたいとよく思うのだが、…

【産経新聞より転載】 『森の人々』 ハニヤ・ヤナギハラ著、山田美明訳 光文社

※本記事は2016年11月6日付産経新聞読書面に掲載された書評の転載です。 虚実入り交じる森をゆく 1950年、免疫学者のエイブラハム・ノートン・ペリーナ博士は、南洋ミクロネシアにあるウ・イヴ諸島のイヴ・イヴ島で、未知の部族と奇病に遭遇する。この疾…

『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』 栗原康著 岩波書店

※本稿は「週刊読書人」2016年6月17日号に掲載された書評の転載です。 著者から野枝への恋文 本書は、大正時代のアナキスト大杉栄のパートナーで、女性解放運動の元祖といわれる伊藤野枝の評伝だ。ただし、物騒なタイトルから察せられるように、常識や道徳観…

『死者は語らずとも』 フィリップ・カー著 柳沢伸洋訳 PHP文芸文庫

肌感覚で突き付けられる歴史と現実 私は本書の主人公ベルンハルト(ベルニー)・グンターの追っかけファンである。ボクサー顔負けの強靭な腕力、ナチズムが闊歩するドイツでも屈しない精神力、いかなる時でも忘れない皮肉……。だから、グンター・シリーズの新…

【産経新聞より転載】 『モッキンバードの娘たち』 ショーン・ステュアート著 鈴木潤訳 東京創元社

※本記事は2016年6月5日付産経新聞読書面に掲載された書評の転載です。 コミカルな「継承」の物語 「才能(ギフト)はときに、拒むことのできないものである。」 本書の主人公トニ・ビーチャムの母エレナの墓石に刻まれた言葉だ。長女であるトニは冒頭、母の…

島をとにかく空想(妄想)する5冊

小学生のとき、臨海学習として、2泊3日で三河湾のとある島に渡ったことがある。見渡す限り山ばかりの長野県で暮らしてきた私にとって、四方を海に囲まれた島での生活は、なかなか不思議な体験であった。潮風、日焼けした島の住民、見慣れない鳥や昆虫、眼前…

仕事まとめ(随時更新)

これまでに新聞・ネット等で書いたものをまとめました。 増え次第更新していきたいと思います。 産経新聞 ○『エディに別れを告げて』 エドゥアール・ルイ著 高橋啓訳 東京創元社 書評 2015年5月17日掲載 ○『夜が来ると』 フィオナ・マクファーレン著 北田絵…

『ドローンランド』 トム・ヒレンブラント著 赤坂桃子訳 河出書房新社

ドローンが溶け込んだ未来で 昨今世間の耳目を集める無人航空機ドローン。メディアで有用性やら問題点やら盛んに報道されているが、では実際問題として、このドローンは今後どのような影響を及ぼしていくのか? そんなクエスチョンに答える本書は、タイトル…

【産経新聞より転載】『典獄と934人のメロス』 坂本敏夫 講談社

※本記事は2016年2月28日付産経新聞読書面に掲載された書評の転載です。 窮地で結ばれた信頼関係 獄塀全壊。大正12年9月1日の関東大震災によって横浜刑務所が陥った窮状である。家屋の倒壊や広がる大火災で横浜中が地獄絵図と化すなか、構内にも火の手が…

この冬書いたもの

思わぬことを頼まれたり、五年使っていたパソコンが壊れたりして、丸三ヶ月もブログを放置してしまいました。書評ばっかりなので訪問者はもともと多くないですが、それでもわりと見ている人がいるようなので、来月からなるべく定期更新しようと思います。 以…

極私的2015ベスト 第2部(海外文学、ノンフィクション、偏愛本)

昨日に引き続き、2015年ベスト本の記事である。本記事では、海外文学(ミステリ以外)、ノンフィクション、そして私が偏愛する本を紹介する。 海外文学(ミステリ以外) ベスト5 1位 『神の水』 パオロ・バチガルピ 中原尚哉訳 新ハヤカワSFシリーズ 2位 …

極私的2015年ベスト 第1部(海外ミステリ、国内文学、話題本)

早いもので2015年も残すところわずかとなり、雑誌各誌では年末恒例の書籍ランキングが賑わいを見せている。私個人、今年は産経新聞にちょくちょく書評を寄せるようになったためか、どの本がランキング入りしたかより、どの評論家が何の本に投票したかに興味…

【産経新聞より転載+補遺】『羊と鋼の森』 宮下奈都著 文藝春秋

※本記事は2015年12月13日付産経新聞読書面に掲載された書評に補遺を加えたものです。 www.sankei.com 森をさまよい始めた人へ 物語は、北海道の山間の集落で育った一人の青年が、十七歳のとき、放課後の体育館で、ピアノが「森の匂い」のする音色を放つのを…

『見張る男』 フィル・ホーガン著 羽田詩津子訳 角川文庫

のぞき男の私小説? まるで存在感のない人間がいる。ごく一般的な容姿容貌を持ち、いつも静かで、周りの景色に溶け込み、波長を合わせて目立たぬよう振る舞う。本書の主人公ヘミングはそういう、学校や職場に一人はいそうなヤツである。 だが彼に全く特徴が…

『或る「小倉日記」伝』 松本清張 新潮文庫

生き様を決めるとき 努力のモチベーションの一つは、真っ当に評価されることである。この短篇集の主人公たちはみな、自身の境遇やコンプレックスにめげず、芸術や文芸、学問の世界でひたすらに才能を燃やして己が道を進む。 しかし、それらの世界もまた清ら…

『颶風の王』 河﨑秋子 角川書店

人智及ばぬ領域を濃厚に描く 身体の頑強な青年がひとり、雪の広がる平野で泣いている。傍らにいる逞しい馬が、青年の眼からこぼれる涙を舐める。青年の名は捨造。開拓民として北海道へ向かう道中、母から渡された壮絶な手紙を読み、その衝撃に、感情を抑えき…

『声』 アーナルデュル・インドリダソン 柳沢由美子訳 東京創元社 

癒えない傷との対峙 「なんという人生だ」 殺された男のかつての師が、男の孤独な生涯を聞き、悲嘆のあまり放った言葉だ。この言葉は、姿形を変え、幾度となく物語に表れ出ては、事件を捜査するエーレンデュルの内で重く響き渡る。読むものもまた、彼が抱え…

記憶に残る短篇集10選

少し前に、Twitterで「#本棚の10冊で自分を表現する」なるハッシュタグが話題を集めていた。詳しくは以下のリンクからわかるが、自分ならどんな10冊だろうと、本棚を探っていたところ、偶然にも、中学から高校時代にかけてつけていた読書記録を発見し、当時…

『世の終わりの真珠』 ルカ・マサーリ 久保耕司訳 シーライトパブリッシング

不死の存在めぐる大冒険SF 本書は、1963年トリノ生まれのイタリア人作家ルカ・マサーリによる、元飛行士マッテオ・カンピーニ三部作の第二作である。2013年に刊行された『時鐘の翼』の続編にあたるが、完全に独立した作品なのでこの作から読んでも問題はない…

【産経新聞より転載+補遺】『真夜中の北京』 ポール・フレンチ 笹山裕子訳 発行:エンジン・ルーム 発売:河出書房新社

※本記事は2015年9月27日付産経新聞読書面に掲載された書評に補遺を加えたものです。 www.sankei.com 3度の捜査で甦る真実 1937年1月の北京。凍てつく寒さの中、狐の精が棲むといわれる望楼・狐狸塔の下で、若い女性の惨殺死体が発見された。身元は、北京在…

『グルブ消息不明』 エドゥアルド・メンドサ 柳原孝敦訳 東宣出版

宇宙人によるバルセローナふれあい報告書 オリンピックを二年後に控えた1990年8月のバルセローナに、二人組の地球外生命体が現れる。任務は、人間社会への潜入調査。肉体を持たない形(純粋知性)である彼らは、目立たぬよう人間の姿に変える必要があった。…

『トマス・クイック 北欧最悪の連続殺人犯になった男』 ハンネス・ロースタム 田中文訳 早川書房

想像を絶する冤罪を暴いたジャーナリスト 本書に関しては「その後」から紹介したほうが良さそうだ。 去る2014年3月19日、スウェーデン・ファールンの精神科病棟にいたある男の釈放がニュースとなった。彼の名はストゥーレ・ベルグワール、またの名をトマス・…

『カルニヴィア 1 禁忌』 ジョナサン・ホルト 奥村章子訳 ハヤカワ文庫NV

水の都で繰り広げられる三人の暗闘 雪舞うヴェネツィアの夜。教会の石段に、奇妙な女性の死体が流れ着いた。頭部に二つの銃創。カトリックの女性には許されない司祭の恰好。そして、腕には不気味な紺色のタトゥー。すべてが、尋常ならざる事件であることを示…

『文章心得帖』 鶴見俊輔 ちくま学芸文庫

良い文章を書きたいと願って 書いた文章をさらすのは、いつになっても慣れない。文章には書き手の人となりがあらわれる。自分のありのままの姿をさらけだしているようなものだ。どう読まれるか、ちゃんと伝わるか、変なことを書いていないかと、書いている最…

『宇宙からの帰還』 立花隆 中公文庫

「神の視座」から見るとは およそ半世紀前、人類は初めて月に降り立った。米ソが宇宙開発競争に明け暮れていたこの時代、宇宙へ飛び立った宇宙飛行士は百人あまり。漆黒の宇宙に浮かぶ地球を見て、彼らは、何を感じ、どんなインパクトを受け、何が変化したの…

『ゴースト・ハント』 H・R・ウェイクフィールド 鈴木克昌 他 訳 創元推理文庫

英国ゴシックホラーを伝える怪異18篇 昨今巷で話題となる怖い話と言えば、やたら猟奇的であったり、奇を衒ったり、脅かすことばかりに執心していたりと、不必要なほど扇情的なものが多い。しかし、怖い話の元祖とでも言うべき怪奇現象や幽霊の類が、科学の発…

『空飛ぶ円盤が墜落した町へ 北南米編』 『ヒマラヤに雪男を探す アジア編』 (X51.ORG THE ODYSSEY) 佐藤健寿 河出文庫

ネットではわからない真実を探す旅 エリア51、ロズウェルUFO墜落事件、エスタンジア、シャンバラ、ヒマラヤの雪男……。オカルトマニアや『Xファイル』ファンが嬉々として反応する言葉だ。本稿で紹介する二冊は、Webサイト「X51.ORG」の管理人である著者が、20…

「夏の10冊」を選んでみた 2015年版

今年も書店に出版各社の「夏の100冊」が並び、賑わいを見せている。とはいえ、夏にフェアをやらない版元もあれば、そもそもそんなフェア自体めったに実施しない(できない)版元もある。そこで、文庫限定で、そういった版元の作品と、今年の新潮文庫・角川文…

『歩道橋の魔術師』 呉明益 天野健太郎訳 白水社エクス・リブリス

郷愁覚える上質な台湾文学 最近、東アジア文学が注目を集めている。例えば、今年の3月発表のTwitter文学賞海外部門第一位『愉楽』は中国現代文学、4月に授賞式が開催された第一回日本翻訳大賞受賞作『カステラ』は韓国文学であった。両賞とも、まだまだ知名…

『まだなにかある』 パトリック・ネス 三辺律子訳 辰巳出版

予測不能のヤングアダルト小説 海で溺れ、岩礁に激しく打ちつけられて死んだ16歳の少年セス。しかし、目を覚ますと、全く見知らぬ町の道路で倒れていた。体中に包帯のような白い布が巻かれ、所々に金属片が取りついた状態で。周囲を見渡しても、車の往来はお…

【産経新聞より転載】『夜が来ると』 フィオナ・マクファーレン 北田絵里子訳 早川書房

※本記事は2015年7月19日付産経新聞読書面に掲載された書評の転載です。 www.sankei.com 不穏な気配漂う幻想小説 オーストラリア、シドニー郊外の海辺で静かな余生を過ごしていた75歳の老女ルース・フィールドは、ある夜更け、家の中を獰猛なトラが徘徊する気…

『謝るなら、いつでもおいで』 川名壮志 集英社

10年の歳月を経て 少年期にニュースで見聞きした事件や事故は、なぜか心に強く残っている。佐世保小六同級生殺害事件はその一つである。事件が発生した2004年6月1日、私もまた小学六年生だった。同い年の女の子が、同級生の女の子の首をカッターナイフで掻っ…

『スーパーセル 恐ろしくも美しい竜巻の驚異』 マイク・ホリングスヘッド エリック・グエン 小林文明監訳 小林政子訳 国書刊行会

竜巻に惹かれる者たち 竜巻を見るのが好きだ、と言っても、たいていは理解されない。当然と言えば当然である。日本で竜巻と言えば、2008年3月に竜巻注意情報の運用が開始され、ゲリラ豪雨と並ぶ昨今の異常気象の代表格として、日常生活を脅かす存在となって…

『アデスタを吹く冷たい風』 トマス・フラナガン 宇野利泰訳 ハヤカワ・ミステリ文庫

詩趣漂う、大人のミステリ短篇集 本書は、トマス・フラナガンが1949年から1958年にかけてEQMMに投稿した短篇七篇を日本独自に編み、1961年にハヤカワ・ミステリ(ポケミス)から刊行された短篇集の文庫化である。1998年と2003年のポケミス復刊希望アンケート…

『疫病神』 黒川博行 新潮文庫/角川文庫

毒は毒をもって制す 裏社会を描いた作品は、主役が犯罪者だったり、めちゃくちゃな論法が罷り通っていたりと、総じて暗く、重い。本書『疫病神』もジャンル分けするならばそういったノワール小説にあたるだろう。しかしそれでは本書の持つ魅力を半分も伝えら…

『夏の沈黙』 ルネ・ナイト 古賀弥生訳 東京創元社

「否認」の普遍性を描くサスペンス 精神分析で用いられる「防衛機制」の一つに、「否認」がある。苦痛や不快感を催す現実を知覚しながら、その現実の認識を拒否して、精神の平常を保とうとする機能である。日常生活でも割と見られる心の働きだが、時としてこ…

『悪意の波紋』 エルヴェ・コメール 山口羊子訳 集英社文庫

悪意で人生を論ずる ある事件やある人物が、波紋のように周囲の人生に影響を及ぼしていくのは、いつの時代、どこの場所でも度々見られる現象だ。本書は、『悪意の波紋』というタイトルどおり、ある瞬間に落とされた悪意の一滴が、半永久的に広がっていく様を…

『最後の紙面』 トム・ラックマン 東江一紀訳 日経文芸文庫

「人間」描く、新聞のような連作短編 本書は、ローマに本拠を置く1954年創刊の小さな英字新聞社が、2007年に業績不振で廃刊に至るまでを描く連作短編集である。しかし、厳密に言うと、主役は「新聞」ではなく、各短編の主人公たち11人の、思うようにいかない…

『東方の黄金』 ロバート・ファン・ヒューリック 和爾桃子訳 ハヤカワ・ミステリ

さらりと読める唐の探偵奇談 まず、肩の力を抜いて、ゆっくりと想像してみよう。七世紀半ば、唐時代の中国――。 都の若き官吏・狄仁傑(ディーレンチェ)は、毒殺された知事の後任として、信頼の厚い老僕一人を従え、初めての任地・平来(ボンライ)へと向か…

【産経新聞より転載+補遺】『エディに別れを告げて』 エドゥアール・ルイ 高橋啓訳 東京創元社

※本記事は2015年5月17日付産経新聞読書面に掲載された書評に補遺を加えたものです。 www.sankei.com 社会の闇に迫る私小説 エドゥアール・ルイという名は、筆名ではなく、著者の現在の本名だ。改名前は、エディ・ベルグルといい、本書の主人公の名前である。…

『帰ってきたヒトラー』 ティムール・ヴェルメシュ 森内薫訳 河出書房新社

国の未来を憂う危険なコメディアン 世の中には、深入りすればするほど危険が高まる事柄が存在する。それは、様々なメディアに姿形を変えて存在し、理性的に立ち回らなければ、こちらが取り込まれてしまう恐ろしさだ。本書は、そのリスクを、「現代に甦ったヒ…