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活字耽溺者の書評集

翻訳ミステリ、サスペンス、ノンフィクション等の書評。産経新聞書評欄に不定期で寄稿。

『グルブ消息不明』 エドゥアルド・メンドサ 柳原孝敦訳 東宣出版

グルブ消息不明 (はじめて出逢う世界のおはなし―スペイン編)

宇宙人によるバルセローナふれあい報告書

 オリンピックを二年後に控えた1990年8月のバルセローナに、二人組の地球外生命体が現れる。任務は、人間社会への潜入調査。肉体を持たない形(純粋知性)である彼らは、目立たぬよう人間の姿に変える必要があった。ところが、先行した相棒のグルブが突如として消息を絶つ。上司である「私」は、グルブを捜すため、同じように人間に化け、かつてないほどの喧騒に沸く街に繰り出した……。

 と、この冒頭部分だけ読むと、少々不気味なSFといった印象を持つかもしれない。しかし、本書に詰まっているのは、気味の悪さではなく、溢れんばかりのユーモアである。

 何せ、グルブはマルタ・サンチェスという妖艶なポップスターに変身して行方知れずとなっていたし、「私」といえば捜索初日から車に轢かれまくり、溝に落ちまくり、体を破損しまくりと、やたらドジを踏んでいる。それを至って真面目な報告書として書き記すものだから、そのギャップに笑うほかない。そんな、宇宙人版「ふれあい街歩き」とでも言うべきハチャメチャな16日間を伝えたのが本書である。

 滑稽さだけではない。就寝前にはパジャマを着てお祈りをしたり、チューロの味にハマって異常な数を購入したりと、無邪気な子供っぽさを見せたかと思えば、同じアパートのシングルマザーにアプローチをかけまくったり、会員制クラブにいた勤め人のおじさんの愚痴を聞いて親しくなったりと、人間臭さも漂う。

 このようなエピソードの数々を追うごとに、この宇宙人にもバルセローナという都市にもじわじわ愛着がわいてくるのが不思議だ。反復されるフレーズとこの迷走劇がマッチして生み出された軽快なテンポも心地良い。今この書評を書くために再読していても、吹き出し笑いと新たな発見があるので、とにかく飽きが来ない。非常に独創的で素晴らしい作品だ。

 著者エドゥアルド・メンドサはバルセローナ生まれの作家。2015年にフランツ・カフカ賞を受賞している。この小説は作中の時間と同じく1990年8月にスペインを代表する新聞に連載され、彼の著作で最も売れた作品となったそうだ。当時のバルセローナ在住の新聞購読者にとってはさぞかし楽しい連載だったのだろう。日本もオリンピックを控えているわけだし(今のところ失望する話ばかりだが)、このようなリアルタイムの連載があったら面白いのではないか……と想像を膨らませてしまう。

 

グルブ消息不明 (はじめて出逢う世界のおはなし―スペイン編)

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奇蹟の都市 (文学の冒険シリーズ)

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