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活字耽溺者の書評集

翻訳ミステリ、サスペンス、ノンフィクション等の書評。産経新聞書評欄に不定期で寄稿。

2014年刊

【週刊800字書評】『ストーナー』 ジョン・ウィリアムズ/東江一紀訳/作品社

※この記事はシミルボンからの転載です。 地味でも平凡でも生きていく 2015年に行われた第1回日本翻訳大賞の読者賞受賞作。その前年に亡くなった翻訳家・東江一紀氏の最後の翻訳書でもある。ストーリーは、簡単に言えば、平凡な男が大学で文学の魅力にとりつ…

『謝るなら、いつでもおいで』 川名壮志 集英社

10年の歳月を経て 少年期にニュースで見聞きした事件や事故は、なぜか心に強く残っている。佐世保小六同級生殺害事件はその一つである。事件が発生した2004年6月1日、私もまた小学六年生だった。同い年の女の子が、同級生の女の子の首をカッターナイフで掻っ…

『最後の紙面』 トム・ラックマン 東江一紀訳 日経文芸文庫

「人間」描く、新聞のような連作短編 本書は、ローマに本拠を置く1954年創刊の小さな英字新聞社が、2007年に業績不振で廃刊に至るまでを描く連作短編集である。しかし、厳密に言うと、主役は「新聞」ではなく、各短編の主人公たち11人の、思うようにいかない…

『帰ってきたヒトラー』 ティムール・ヴェルメシュ 森内薫訳 河出書房新社

国の未来を憂う危険なコメディアン 世の中には、深入りすればするほど危険が高まる事柄が存在する。それは、様々なメディアに姿形を変えて存在し、理性的に立ち回らなければ、こちらが取り込まれてしまう恐ろしさだ。本書は、そのリスクを、「現代に甦ったヒ…

『静かなる炎』 フィリップ・カー 柳沢伸洋訳 PHP文芸文庫

くすぶり続ける鉤十字 報道でたびたび取り上げられているとおり、今年2015年は終戦70年の節目の年であり、去る5月8日はドイツの終戦記念日であった。ドイツではこの日をナチス体制からの「解放の日」と呼ぶこともあり、鉤十字は今なおドイツ社会に影を落とし…

『異常気象と気候変動についてわかっていることいないこと』 筆保弘徳/川瀬宏明編 ベレ出版

「空の以心伝心」に挑む若き研究者たち 昨今、異常気象や地球温暖化がさかんに取り沙汰されるようになった。近年で最も厳しい寒さに見舞われた2012年冬。高知県で国内最高気温41.0度を更新した2013年夏。2014年2月の二週連続の大雪は、記憶に新しい人も多い…

『ソロモンの偽証』 宮部みゆき 新潮文庫

靄の中を生きていくために 中学時代ほど、不安定な時間はない。図体だけデカくて頭はまだまだ子供だったり、いわゆるスクール・カーストなど人間関係に苦しめられたり、コントロールに困る感情が芽生えたり、驚異的な行動力や想像力を発揮したりと、何かと身…

『赤い右手』 ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ 夏来健次訳 創元推理文庫

悪夢を心ゆくまで愉しむ 熱に浮かされていると悪夢を見る。誰しも一度や二度は体験したことがあるだろう。小説でもその疑似体験が可能な作品がいくつか存在しているが、その中でも、本書は文字通りの「悪夢」を、奇妙な酩酊とともに味わえる怪作ミステリであ…

『私に似た人』貫井徳郎 朝日新聞出版

「私に似た人」は誰か? 長らくの経済不況で、閉塞感を抱いている人は多い。貧困層の息苦しさはより顕著である。本書は、個々人のその鬱積した感情が、計画性のない小規模なテロ行為、《小口テロ》として発露し、日常化した現代日本を、十の短編、十人の主人…

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』ジェームズ・M・ケイン 田口俊樹訳 新潮文庫

“二度”の運命を、かろやかな名訳で 本書は、古典的名作小説の新訳である。アメリカでの初刊は1934年、初邦訳は1953年で、以後は、帯の惹句に「映画化7回、邦訳6回、永遠のベストセラー!」とあるように、全世界で長く親しまれてきた。しかし、タイトルはなん…

『その女アレックス』 ピエール・ルメートル 橘明美訳 文春文庫

プロットの妙を見る、現代サスペンス 見る角度によって絵柄が変わったり、立体感が得られたりする印刷物のことをレンチキュラーと呼ぶ。雑誌の付録などで馴染みのある人も多いのではないか。本書はそれを、小説でやってのけた、とんでもないサスペンス・ミス…