【800字書評+補遺】森をさまよい始めた人へ――『羊と鋼の森』(宮下奈都/文春文庫)

※本記事は2015年12月13日付産経新聞読書面に掲載された書評に補遺を加えたものです。 物語は、北海道の山間の集落で育った一人の青年が、十七歳のとき、放課後の体育館で、ピアノが「森の匂い」のする音色を放つのを聞いたことに始まる。鍵盤を押すと、羊毛でできたフェルトのハンマーが、対応する鋼の弦を叩く。ピアノが…