800字書評
※この記事はシミルボンからの転載です。 驚異の世界に挑む想像力 宇宙は、想像を絶する空間である。幾多の創作者が、宇宙をモチーフに作品を創り上げてきた。だが、観測技術が発達するにつれ、創作を軽く凌駕するデータや桁外れな事実が明らかになり、真っ向…
※この記事はシミルボンからの転載です。 身を焦がさんばかりの渇望 徳川家康、関ヶ原の闘いにて暗殺される! この現実に最も震撼したのは、そばにいた家康の影武者・世良田二郎三郎。彼は、家康と年齢が近いだけでなく、背格好から体格、容貌に至るまで、家…
※この記事はシミルボンからの転載です。 最悪の状況に向かって落ちていく! 舞台は神奈川県川崎市近郊、主役は三人。有限会社「川谷鉄工所」経営者・川谷信次郎は、バブル崩壊の不況にあえぎながら、従業員三名の会社をなんとか切り盛りしていたが、近隣のマ…
涙誘う、滅びゆく一つのエロ文化 帯に、「これまでも、これからも決して出版されない書籍の誕生。」とある。本書を読み終えて、まさしくその通りだと得心した。こんなの誰も真似できない。だいたいマニアックすぎる。一言で説明すると、全国に点在するエロ本…
※この記事はシミルボンからの転載です。 地味でも平凡でも生きていく 2015年に行われた第1回日本翻訳大賞の読者賞受賞作。その前年に亡くなった翻訳家・東江一紀氏の最後の翻訳書でもある。ストーリーは、簡単に言えば、平凡な男が大学で文学の魅力にとりつ…
料理しながらゆるく楽しく学ぶ! 金曜日16時半すぎ、大阪大学豊中キャンパス、理学部学生実習室。15名ほどの学生が講義を受けている。科目名は「料理生物学入門」。今日は小麦粉を捏ねる作業が中心だ。 P(教授) 生地を寝かせている間に、今の作業が、小麦…
アイスランド最果ての地の群衆劇 舞台の紹介から始めよう。 シグルフィヨルズルは、アイスランド北部の最果てにある人口1200人ほどの港町。首都レイキャヴィークより北極圏に近く、環状に連なる山とフィヨルドに囲まれて、空はいつも雲に覆われ灰色にくすん…
閉鎖的無限回廊をゆく娯楽SF 原題は「THE WAY INN」で、本書に登場するホテルの名称である。どんなホテルか解説すると、世界各地に五百軒以上店舗を構える有数のホテルチェーンで、客室は百室以上。建物全体に最新設備がそなわり、巨大で魅力あふれる建築物…
ボケを挟まないと死んじゃう鳥類学者 文筆家ではないのに、才気煥発な文を書く人がいる。著者もその一人であろう。簡単にプロフィールを書くと、本業は森林研究所の研究者。鳥類学を専門とし、テレビの自然番組や図鑑の監修を多く手掛けている。また、主な調…
膨大な資料で裏打ちされた力作解説本 本書の帯には、ゲームクリエイターの松野泰己氏が「これ、パクってイイ?」とコメントを寄せている。松野氏は、『オウガバトルシリーズ』や『FFⅫ』といった大作ゲームのシナリオ・舞台構築に携わった人物で、神話や歴史…
迷宮から抜け出すには タイトルにあるアラスカとは、アラスカ州のことではなく、本書に登場する女の子の名前である。どんな子かというと、放埓で気まぐれで、ひじょうにアクティブ。趣味は読書で、寮の自室には凄まじい量の蔵書がある。早く死にたいと願いつ…
言語を覚えた先の世界へ誘う書評集 私は海外文学が好きだが、語学はからっきしダメである。英語ですら怪しい。だが、海外文学を読んでいると、舞台となる国の言葉についてもついつい知りたくなってしまう。 そんなわけで、語学を学びたいとよく思うのだが、…
※本記事は2016年11月6日付産経新聞読書面に掲載された書評の転載です。 虚実入り交じる森をゆく 1950年、免疫学者のエイブラハム・ノートン・ペリーナ博士は、南洋ミクロネシアにあるウ・イヴ諸島のイヴ・イヴ島で、未知の部族と奇病に遭遇する。この疾…
※本記事は2016年6月5日付産経新聞読書面に掲載された書評の転載です。 コミカルな「継承」の物語 「才能(ギフト)はときに、拒むことのできないものである。」 本書の主人公トニ・ビーチャムの母エレナの墓石に刻まれた言葉だ。長女であるトニは冒頭、母の…
※本記事は2016年2月28日付産経新聞読書面に掲載された書評の転載です。 窮地で結ばれた信頼関係 獄塀全壊。大正12年9月1日の関東大震災によって横浜刑務所が陥った窮状である。家屋の倒壊や広がる大火災で横浜中が地獄絵図と化すなか、構内にも火の手が…
※本記事は2015年12月13日付産経新聞読書面に掲載された書評に補遺を加えたものです。 物語は、北海道の山間の集落で育った一人の青年が、十七歳のとき、放課後の体育館で、ピアノが「森の匂い」のする音色を放つのを聞いたことに始まる。鍵盤を押すと、羊毛…
※本記事は2015年9月27日付産経新聞読書面に掲載された書評に補遺を加えたものです。 www.sankei.com 3度の捜査で甦る真実 1937年1月の北京。凍てつく寒さの中、狐の精が棲むといわれる望楼・狐狸塔の下で、若い女性の惨殺死体が発見された。身元は、北京在…
「神の視座」から見るとは およそ半世紀前、人類は初めて月に降り立った。米ソが宇宙開発競争に明け暮れていたこの時代、宇宙へ飛び立った宇宙飛行士は百人あまり。漆黒の宇宙に浮かぶ地球を見て、彼らは、何を感じ、どんなインパクトを受け、何が変化したの…
※本記事は2015年7月19日付産経新聞読書面に掲載された書評の転載です。 www.sankei.com 不穏な気配漂う幻想小説 オーストラリア、シドニー郊外の海辺で静かな余生を過ごしていた75歳の老女ルース・フィールドは、ある夜更け、家の中を獰猛なトラが徘徊する気…
※本記事は2015年5月17日付産経新聞読書面に掲載された書評に補遺を加えたものです。 www.sankei.com 社会の闇に迫る私小説 エドゥアール・ルイという名は、筆名ではなく、著者の現在の本名だ。改名前は、エディ・ベルグルといい、本書の主人公の名前である。…
天気と気象相手に謎解き 日々を忙しなく暮らしていると、空を見上げることはほとんどない。せいぜい天気予報で、明日は雨だとか、真夏日だとかをチェックする程度であろう。しかし、空は想像を絶するエネルギーに満ちた、ミステリアスな空間なのである。 本…