活字耽溺者の書評集

好きな本を自由気ままに書評するブログ。

【読書日記】『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治/新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

 各所で話題沸騰の一冊。ツイッターで、全くもって三等分になっていないケーキの図(書影の帯にある図)が回ってきたのを見た方は多いかもしれない。この絵のとおり、非行に走る少年たちの多くは認知機能が小学校低学年ほどしかなく、それゆえに反省を促したり良いところを褒めて伸ばしたりするような従来の矯正は無意味に等しいというショッキングな現実が綴られている。橘玲言ってはいけない』(新潮新書)シリーズに近い読後感がある。人口の14%いるという、IQが低いが低すぎるわけではない「軽度知的障害」が見過ごされているとの指摘も興味深い。

 それにしても、普通に生きていくとはなんと難しいことだろうか。たとえば、非行少年たちの特徴として対人スキルが弱い、身体的不器用さなどが挙げられているが、私も思春期にこれらには大いに悩まされた記憶があるし、今でも改善したとは思えない。同じような悩みを抱えてきた人はそれなりにいるのではないか。認知力の差はあれど、彼らとの間にそんなに違いはないような気がしてしまう。 

 このように見てくると、適切な自己評価ができるようになることは、なにも非行少年に限った話ではなく、人間誰しも一度は成長していくうえで直面する問題と考えられる。

 また、多忙を極める教育現場で、先生たちがこうした少年たちのフォローにリソースを割けるだけの余裕があるのか、疑念は尽きない。