活字耽溺者の書評集

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【800字書評】『ぬばたまおろち、しらたまおろち』 白鷺あおい/創元推理文庫

和洋ごった煮の現代お伽話

 主人公の深瀬綾乃は、岡山の山奥の村で暮らす少女。小学4年生のとき事故で両親を失い、伯父の家に引き取られ、現在14歳になる。

 綾乃には幼馴染がいる。お社の裏の淵の洞穴に棲む白い大蛇だ。名前はアロウ。3メートル以上の巨体を持ち、人間の言葉を話すこともできる。アロウは綾乃に首ったけで、泳ぎを教えてくれたり相談に乗ったりする優しい面もあるが、異種であることお構いなしに積極的アプローチをしてくるスケベな蛇でもある。

 そんな折、綾乃は村の雨乞いの祭りにて、舞姫の役に抜擢される。だが、祭り当日、村近くのサーカスから逃げ出したアナコンダに襲われ、綾乃を守ろうとするアロウと化け物の間で怪獣大決戦が繰り広げられる……。

 と、伝奇的なエッセンス盛り沢山の本書だが、ここまではイントロダクションにすぎない。この後、村を訪れていた民俗学者で魔女のお姉さんに窮地を救われた綾乃は、そのまま茨城にある魔女学校ディアーヌ学院に転入し、薬草学やら箒の乗り方やらを学ぶ学園物語が第二幕として開演するのだから、驚くばかりだ。

 本書の醍醐味はこの和洋ごった煮のゆるさだ。たとえば前述のアナコンダの正体はネス湖で育った首長竜(ネッシー?)であるし、ディアーヌ学院のルーツはフランスのボルドー出身の魔女一族だ。学院の生徒は主に妖怪(「妖魅」と呼ばれる)から成り、雪女、人狼、小豆洗い、のっぺらぼうと多様で、中には人間とのハーフもいる。この学園生活はいかにも『ハリー・ポッター』なのだが、なにぶん茨城が舞台なので、つくばエクスプレス地震の多さなどもネタとして混ぜられており、妙なミスマッチについつい笑みがこぼれてしまう。

 しかし、散漫な作品ではない。某有名海外SFからモチーフを得た第三幕によって、実は周到な計算が巡らされたお伽話であったことを読者は思い知らされる。加えて、軽妙で明るい語りが心地良く、澱みを感じさせないのもいい。目新しさはないが、躍動感みなぎる楽しい一冊だ。第2回創元ファンタジイ新人賞優秀賞受賞作。(834字)