活字耽溺者の書評集

好きな本を自由気ままに書評するブログ。

【週刊800字書評】『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』 川上和人/新潮社

ボケを挟まないと死んじゃう鳥類学者

 文筆家ではないのに、才気煥発な文を書く人がいる。著者もその一人であろう。簡単にプロフィールを書くと、本業は森林研究所の研究者。鳥類学を専門とし、テレビの自然番組や図鑑の監修を多く手掛けている。また、主な調査地が小笠原諸島で、2013年末に噴火し話題を集めた西ノ島の生態系調査も行っている。

 そんな彼の名を一躍世に知らしめたのが、4年前に上梓した『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』である。中身は至って真面目な科学ノンフィクションなのだが、そのユーモアセンスと文才に注目が集まり、この年のノンフィクション界隈を大いに賑わせたのだ。

 本書でもそれは如何なく発揮されている。「はじめに」にて、鳥類学の成果があまり世間に認知されていないことを踏まえ、こう綴る。

「実利の小さい学問の存在理由は、人類の知的好奇心である。縄文人土偶製作も、火星人の破壊工作も、ダウ平均株価には一切影響を与えない。それでも人は土偶や火星人の動向を知りたくてしょうがない。

(中略)鳥類学者を友人に持たぬことは、読者諸氏にとって大きな損失である。そこで、ボンドに代わって鳥類学者を代表し、その損失を勝手に補填することを決めた。」

 ……という理由で勝手に(!)読者の友達となった著者が鳥類学についてあれこれ語ってくれるのがこの本の概要だ。この引用からでも分かるとおり、文章中にぽつぽつギャグを挟んでくるのが特徴で、時には小さい章まるごとネタを仕込んでくるから油断できない。

 しかし、いつもふざけているわけではない。上空から西ノ島に接近し海鳥の姿を探したり、南硫黄島で無数の小バエと格闘したり、生態系保全のためやむなく外来生物を全滅させたりと、ハードな体験やデリケートな問題を話すときはしっかりと襟を正す。こういった面があるからこそ、無人島より謎めく調査隊員たちやらキョロちゃんの鳥類学的分析やらリンゴジュースとの絶交といったネタで思いっきり笑えるのだ。肩の力を抜いて楽しめる、素敵な科学ノンフィクション・エッセイである。(830字)