活字耽溺者の書評集

好きな本を自由気ままに書評するブログ。

【週刊800字書評】『十三世紀のハローワーク』 グレゴリウス山田/一迅社

膨大な資料で裏打ちされた力作解説本

 本書の帯には、ゲームクリエイター松野泰己氏が「これ、パクってイイ?」とコメントを寄せている。松野氏は、『オウガバトルシリーズ』や『FFⅫ』といった大作ゲームのシナリオ・舞台構築に携わった人物で、神話や歴史、文化、宗教、政治体制などを非常に緻密に設定し制作を行うことで有名である。

 そんな松野氏にパクりたいと言わしめる『十三世紀のハローワーク』(タイトルは村上龍の某著作のパロディなのは言わずもがな)。一言で説明すると、中世ヨーロッパにて実在した職業を、ゲームのユニット風にわかりやすく解説した本なのだが、とにかく凄い。ファンタジー好き、RPG好き、資料集・設定集好き、そして中世の世界観を愛する方々は、正直言って、こんな書評を読むよりも、すぐに書店へ走って、この本をパラパラ捲ってみるべきである。絵柄から匂い、厚さ、文章量に至るまで、圧倒されるはずだからだ。

 紹介される職業は100種以上。吟遊詩人、剣闘士、錬金術師といった、RPGではおなじみのジョブはもちろんのこと、神の言葉を説いて回る「説教師」、対獣の代表戦士「狩狼官」、北欧人からなる皇帝親衛隊「ヴァリャーギ」、風呂場で垢擦りなどのサービスをする「三助」、縄の結び目で言葉を紡ぐ「キプカマヨク」などなど多岐に渡り、知的好奇心をこれでもかと刺激する。

 こういった職業の数々を、ファンシーなイラスト付のフルカラーで、しかも属性や能力値のパラメータのグラフまでそなえているのだから、充実度も申し分ない。解説も軽妙な語り口で堅苦しくなく、巻末に載せられた膨大な資料と参考文献の数が記述の精度を裏打ちしているのも良い。

 著者は漫画家で、同人作家でもあり、本書はもともと同人誌として頒布されたものをまとめ、商業出版として形にしたものである。そのためか、少々粗っぽい箇所もあるが、そんな引っ掛かりなど吹き飛ばすほどの力作であること請け合いだ。私の最近の愉しみは、寝床で微睡みながら本書を眺めて、無為な妄想に耽ることである。(821字)