読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

活字耽溺者の書評集

翻訳ミステリ、サスペンス、ノンフィクション等の書評。産経新聞書評欄に不定期で寄稿。

『寝るまえ5分の外国語 語学書書評集』 黒田龍之助 白水社

ノンフィクション・人文書・研究書 2016年刊

寝るまえ5分の外国語:語学書書評集

言語を覚えた先の世界へ誘う書評集

 私は海外文学が好きだが、語学はからっきしダメである。英語ですら怪しい。だが、海外文学を読んでいると、舞台となる国の言葉についてもついつい知りたくなってしまう。

 そんなわけで、語学を学びたいとよく思うのだが、一口に語学書といっても、入門テキスト、単語集、例文集、会話集、資格検定の対策本など、多岐にわたる。どれを選んだら良いかわからない、誰か水先案内人はいないものか――と考えていたところで発見したのが、世にも珍しい語学書書評集である本書『寝るまえ5分の外国語』だ。

 著者はスラヴ語専門家で、ロシア語、ウクライナ語にも精通する言語学者。本書は『出版ダイジェスト 白水社の本棚』で7年間に渡って連載された書評記事をベースに、新たに書き下ろしやコラムを加え集成したものだ。その数、100本。絶版本含め、白水社の書籍が大半だが、著者の意向で、他社の語学書の評も収められている。

 スラヴ語専門家だから、さぞかしその諸語の本が多いのでは、と思う向きがいるかもしれないが、全く違う。もちろん、専門分野の書籍もあるが、著者の基本スタンスは「客観的な視点で、誠実に、いろんな語学書を書評する」ことだ。そのため、スペイン語ヒンディー語のようなスピーカーの多い言語から、デンマーク語、スワヒリ語、韓国語、タイ語といった少数言語まで余すところなくピックアップしている。

 面白いのは、レイアウトや図版の工夫を取り上げるだけでなく、様々な趣向を凝らして紹介していることだ。エッセイ風味にしてみたり、登場する男女キャラクターの関係性について妄想を膨らませたり、例文がミステリー調であることにはしゃいだり……。その語学書への興味をわかせつつ、言語を覚えた先の広大な世界に誘おうとするこの技巧が、なんとも素晴らしい。見習わなければ。

「寝るまえ5分」とは、教養書の名著『エセー』の入門書『寝るまえ5分のモンテーニュ』からヒントを得、就寝前の読書習慣の継続を願ってつけたそうだ。しかし、本書に秘められたユーモアと語学への愛を追うだけでも徹夜必至である。(854字)

 

寝るまえ5分の外国語:語学書書評集

寝るまえ5分の外国語:語学書書評集

 

 

寝るまえ5分のモンテーニュ 「エセー」入門

寝るまえ5分のモンテーニュ 「エセー」入門