活字耽溺者の書評集

好きな本を自由気ままに書評するブログ。

『世の終わりの真珠』 ルカ・マサーリ 久保耕司訳 シーライトパブリッシング

世の終わりの真珠

不死の存在めぐる大冒険SF

 本書は、1963年トリノ生まれのイタリア人作家ルカ・マサーリによる、元飛行士マッテオ・カンピーニ三部作の第二作である。2013年に刊行された『時鐘の翼』の続編にあたるが、完全に独立した作品なのでこの作から読んでも問題はない。とはいえ、ページ数は600を超え、種々雑多な要素がぎっしり詰め込まれ、なかなかに骨太なエンターテイメントである。

 1924年モナコ公国モンテカルロのカジノで、ルイ・ルノーはアンドレ・シトロエン(二人とも実在のあの有名な自動車会社の創業者)に対し、ある賭けを持ち掛けた。それは、モンテカルロからヴィクトリア湖まで、サハラを自動車で横断するというもの。期限は十日、金額は一千万フラン。

 シトロエンは、たまたまカジノに居合わせたバーテンダーのラウル、ダンサーのコリーヌ、そして元飛行士マッテオを乗員に選出し、無限軌道設置型シトロエンB2(通称黄金虫)二台で砂漠へと旅立つ。無論、順風満帆といくはずもなく、道中、燃料や食糧の不足に苛まれたり、謎の武装組織による虐殺が行われた村の子供と交流したりする。

 しかしそれらはまだ序の口で、突然のフランス外人部隊の襲撃により、事態は輪をかけて混沌とし、あれよあれよという間に、彼らは〈不死の存在〉をめぐる人類の存亡をかけたいざこざの渦中にいることを知る……。

 一方、はるか遠い未来、放射能の風が吹く砂漠で、少女マナートは、高値で売れる希少な電子部品を探していた。ところが、突如として、この時代を支配するネオ・オスマン帝国が使用する不定形の殺戮機械〈カラーム〉に攻撃され、仲間を焼き殺される。

 その後、帝国と敵対するイスラム教僧兵集団〈サイバー・ダルヴィーシュ〉に助けられた彼女は、手厚い庇護下に置かれる。彼女は、コーランにおける、ある重大な鍵を持っていたのだ。それを知るもう一つの組織〈テトラーデ〉も動き出し、争いはやがて時空を超えて、1924年のマッテオたちに干渉し始める……。

 この、現代と未来の二つの視点が次第にクロスしていくと同時に、自動車の薀蓄、イスラム教の用語や歴史、暗号解読、人智を凌駕する生物といった要素も混ざり合う。もはやこれ以上の解説はいらず、ストーリー紹介だけで十二分に魅力きらめく冒険・時間SFとなっている。ここまで読んで、心惹かれるトピックが一つでもあり、あまり細かいことは気にしない性格ならば、手を伸ばしてみてはいかだろうか。

 

世の終わりの真珠

世の終わりの真珠

  • 作者: ルカ・マサーリ,相良 薫,久保耕司
  • 出版社/メーカー: シーライトパブリッシング
  • 発売日: 2015/08/08
  • メディア: 単行本
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時鐘の翼

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