読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

活字耽溺者の書評集

翻訳ミステリ、サスペンス、ノンフィクション等の書評。産経新聞書評欄に不定期で寄稿。

『ゴースト・ハント』 H・R・ウェイクフィールド 鈴木克昌 他 訳 創元推理文庫

ゴースト・ハント (創元推理文庫)

英国ゴシックホラーを伝える怪異18篇

 昨今巷で話題となる怖い話と言えば、やたら猟奇的であったり、奇を衒ったり、脅かすことばかりに執心していたりと、不必要なほど扇情的なものが多い。しかし、怖い話の元祖とでも言うべき怪奇現象や幽霊の類が、科学の発展とともに駆逐されていっている現状を踏まえると、致し方のない流れではある。

 そのような幽霊譚の限界を知りながら、最期まで幽霊譚に殉じた作家が、本書の著者H・R・ウェイクフィールドである。1888年英国生まれで、1920年代に多く作品を発表し人気を獲得したが、彼の死後、著作はすべて絶版となり、日本はおろか、本国でも忘れ去れた作家であったそうだ。本書は1996年に日本独自に編纂された短篇集『赤い館』(国書刊行会)に増補9篇を加えた文庫決定版である。

 収録作の主な舞台は、幽霊屋敷、忌まわしき地、呪われた部屋――作中の言葉を借りるなら、「魔所(デストラップ)」や「暗黒の領域」――といった特定の空間である。30人もの自殺者を出した大邸宅を訪ったラジオ番組のリポーターがじわじわと狂っていく表題作『ゴースト・ハント』、悪相の肖像画が支配する部屋と魔術師の対峙『暗黒の場所』、妻の殺害容疑をかけられた男が、屋敷近くの湖から聞こえる奇妙な声に精神をやられていく『悲哀の湖』……。

 劇場遊びで起きた謎の現象に憑りつかれ、成人後劇として再演を図ろうとする男の狂気『中心人物』、家の地下に眠る時限爆弾の悪夢に悩まされる夫婦『蜂の死』のような、得体の知れないものがもたらす不条理さを扱った作品も秀逸である。

 ただ、今となっては使い倒された題材が多く、古臭いようにも感じられる。スティーヴン・キングのようなモダンホラーを求めると肩透かしを食らうだろう。だが、英国ゴシックホラーの正統派と謳われるだけあり、堅実かつ淡々とした筆致によってじわじわと恐怖の圧が増幅されていく様は、ちょっとやそっとでは真似できない。日本のホラーにありがちな生々しい嫌悪感もなく、どちらかといえば欧州らしい幻想的な気配が漂っているのも特徴的だ。

 科学が小説を陳腐にし、ゴースト・ストーリーの創作は滅びゆく芸術だと、1961年に発表した短編集のエッセイで述べた著者は、日記や原稿などをすべて破棄し、64年に亡くなった。たしかに幽霊譚は絶滅危惧種である。そんな現代でも生まれた本書は、怪異の根源的な怖さを思い起こさせてくれる、紛うことなき良書である。

 

ゴースト・ハント (創元推理文庫)

ゴースト・ハント (創元推理文庫)

 

 

赤い館 (魔法の本棚)

赤い館 (魔法の本棚)