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活字耽溺者の書評集

翻訳ミステリ、サスペンス、ノンフィクション等の書評。産経新聞書評欄に不定期で寄稿。

『空飛ぶ円盤が墜落した町へ 北南米編』 『ヒマラヤに雪男を探す アジア編』 (X51.ORG THE ODYSSEY) 佐藤健寿 河出文庫

空飛ぶ円盤が墜落した町へ: X51.ORG THE ODYSSEY 北南米編 (河出文庫)

ヒマラヤに雪男を探す: X51.ORG THE ODYSSEY アジア編 (河出文庫)

ネットではわからない真実を探す旅

 エリア51ロズウェルUFO墜落事件、エスタンジア、シャンバラ、ヒマラヤの雪男……。オカルトマニアや『Xファイル』ファンが嬉々として反応する言葉だ。本稿で紹介する二冊は、Webサイト「X51.ORG」の管理人である著者が、2003年から2006年にかけて上述の逸話が生まれた現地を視察して回った旅行記の集大成である。単行本は『X51.ORG THE ODYSSEY』で、文庫化に際して、北南米編とアジア編に分冊された。

 北南米編では、「UFO秘密基地」の異名を持つネバダ州の米空軍基地エリア51と、UFO神話の聖地ニューメキシコロズウェルを渡り歩く。とても入り込めないエリア51の厳戒警備や突然の事故、茫漠としたロズウェルの地。奇々怪々なUFO博物館にも立ち寄りつつ、アメリカの現代史をUFOの歴史からアプローチする。

 その後、1980年代に一世を風靡した国際ジャーナリスト落合信彦(ノビー)の著書『20世紀最後の真実』の「南米のエスタンジアにナチス円盤開発秘密基地がある」という記述の真相を確かめるべく、南米中を駆け巡る。言葉の意味、文献や回想録の吟味を通して、エスタンジアの位置を特定しようとする様は下手なミステリ小説より面白い。

 著者は、これらのオカルトに対して、肯定派でも否定派でもない。「わからないから、自分の目で見て探す」。ただそれだけだ。インターネットを使えばどんな情報も入手できる今の時代からすると、いささか逆行している。それでも著者は、そんな現代社会の問題点、すなわち、要約された情報だけ見て真実を知ったとすることに強い違和感を持つ。

 そんな著者の姿勢は、アジア編で一つの実を結ぶ。

 それは、チベット文化圏を中心に伝わる理想郷「シャンバラ」の捜索ののちの、イエティ(雪男)伝説発祥の地であるヒマラヤ視察で起こる。雪男は、すでにいくつかの調査隊と研究者の手によって正体はヒグマであると結論付けられていた。著者もそこに疑問はなかった。しかし、ヒマラヤに一ケ月滞在し、近隣の村への取材や伝説の検証を繰り返していくうちに、研究者にもわからなかった真相に到達する。

 大事なことを書き忘れていたが、本書には、取り上げられたオカルトへの明快な答えはない。調べれば調べるほど現実はわからないことだらけだと実感するだけだ。だが、ともすれば凡庸にも聞こえるその「答え」は、ネットに浸って白黒つけることばかりに執心する人々には決してたどり着かないだろう。写真、注釈、コラム、先達の言葉といった資料を十二分に駆使した本書は、オカルトの魅力や現地の空気を伝えるだけでなく、情報社会の弱さを鋭く突いたジャーナリスティックな本でもある。

 

 

 

X51.ORG THE ODYSSEY

X51.ORG THE ODYSSEY