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活字耽溺者の書評集

翻訳ミステリ、サスペンス、ノンフィクション等の書評。産経新聞書評欄に不定期で寄稿。

『スーパーセル 恐ろしくも美しい竜巻の驚異』 マイク・ホリングスヘッド エリック・グエン 小林文明監訳 小林政子訳 国書刊行会

スーパーセル  恐ろしくも美しい竜巻の驚異

竜巻に惹かれる者たち

 竜巻を見るのが好きだ、と言っても、たいていは理解されない。当然と言えば当然である。日本で竜巻と言えば、2008年3月に竜巻注意情報の運用が開始され、ゲリラ豪雨と並ぶ昨今の異常気象の代表格として、日常生活を脅かす存在となっている。現に被害も発生しており、竜巻が好きだなんて、災害が好きだと言っているようなものだ。理解されないどころか、正気を疑われてもおかしくはない。

 無論、竜巻は「脅威」である。しかし、竜巻に畏怖を覚えると同時に、人智を超えたその「驚異」に魅了されてしまった物好きが少なからずいるのも事実である。本書は、そんな好事家である「ストームチェイサー」、すなわち竜巻の追跡を道楽とする二人のアメリカ人が、アメリカ中西部の「竜巻街道」で撮影したストームのオールカラー写真集である。

 ひとまずはカバー表紙の写真を見ていただきたい。今まさに巨大UFOでも出現しそうなほどの迫力ある黒雲だが、これはスーパーセル(巨大積乱雲)の垂れ下がった雲底の一部で、著者の一人であるマイクのお気に入りの一枚だそうだ。壁雲とも呼ばれ、竜巻は主にこの大規模構造から発生する。本書にはこのように黒々とした異様な雲の数々に、神の指先のように地上を進む竜巻(漏斗雲)、雪のように道路を覆い尽くす大粒の雹など、息を呑むような写真で溢れている。

 ストームチェイサーと呼ばれる人々は、科学者から初心者まで幅広い層に存在する。仕事は文字通りストームを追跡して、写真や映像をテレビ局や気象局に提供することだが、実はその報酬だけで食べていける人はほぼいないのだそうである。つまり、プロが存在せず、仕事ではなく趣味や道楽の領域なのだ。また、追跡において最も危険なのはストームではなく、追跡中の危険運転であったりする。本書の写真に添えられた著者二人のコメントからもそんな裏事情が窺える。

 巻末に「ストームの科学」と題された、気象学としてのストームの簡単な解説も加えられ、竜巻ファンには垂涎の一冊となっている。この名画のような驚異の写真の数々を見て、美的感覚を刺激されずにいられようか。それこそが、ストームチェイサーが竜巻に蠱惑される最大の理由である。

 

スーパーセル  恐ろしくも美しい竜巻の驚異

スーパーセル 恐ろしくも美しい竜巻の驚異