活字耽溺者の書評集

好きな本を自由気ままに書評するブログ。

海外ミステリ・サスペンス

【追悼2】『女には向かない職業』 P・D・ジェイムズ 小泉喜美子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫

うら若き女探偵と老練な刑事の交錯 「探偵稼業は女に向かない」 誰もがコーデリア・グレイにそう言った。世間知らずの22歳の娘に、そんな荒仕事ができるわけない……。それでもコーデリアは、病を苦に自殺した探偵事務所の共同経営者バーニイ・プライドの意志…

【追悼1】『ナイチンゲールの屍衣』P・D・ジェイムズ 隅田たけ子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫

暗さの中の人生哲学 偉大な女流作家が去る11月27日に亡くなった。94歳であった。 P・D・ジェイムズは、1920年オックスフォード生まれの本格推理作家で、42歳のときにアダム・ダルグリッシュ警視シリーズ第一作『女の顔を覆え』でデビューし、寡作ながらも、C…

『九マイルは遠すぎる』ハリイ・ケメルマン 永井淳/深町真理子訳  ハヤカワ・ミステリ文庫

熟成された“純粋”本格推理小説集 本書は、安楽椅子探偵ものとしては傑作の部類に入る短編集である。なぜならば、この作品の探偵は、犯罪学に造詣があるわけでもなければ、優れた直観力を持っているわけでもない。真に純粋な推理だけで謎を解くのだ。しかも、…

『その女アレックス』 ピエール・ルメートル 橘明美訳 文春文庫

プロットの妙を見る、現代サスペンス 見る角度によって絵柄が変わったり、立体感が得られたりする印刷物のことをレンチキュラーと呼ぶ。雑誌の付録などで馴染みのある人も多いのではないか。本書はそれを、小説でやってのけた、とんでもないサスペンス・ミス…

『幻の女』 ウイリアム・アイリッシュ 稲葉昭雄訳 ハヤカワ・ミステリ文庫

詩情を感じる、名訳古典サスペンス 「夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。」 アメリカの推理作家ウイリアム・アイリッシュ(別名義コーネル・ウールリッチ)の代表作である本書は、こんな一文で幕を開ける。まだ英単語をち…