活字耽溺者の書評集

好きな本を自由気ままに書評するブログ。

国内文学

【週刊800字書評】『建築文学傑作選』 青木淳[選]/講談社文芸文庫

建築の気配を感じさせる文学 本書は、読売新聞の書評委員を務めたこともある建築家・青木淳が編者の建築文学選集である。建築文学とは、建築物が主役を張る作品ではなく、編者解説から引用すると、「文学のつくりそのもので、建築的な問題をはらんでいるよう…

『ぼっけえ、きょうてえ』 岩井志麻子/角川ホラー文庫

※この記事はシミルボンからの転載です。 悪意の淵へ誘う音と文体 タイトルの「ぼっけえ、きょうてえ」とは、岡山地方の方言で、「とても、怖い」を意味する。とても怖い話――こう書くと、なんだかそれほど怖くないような感じがしてしまうが、滅相もない。本書…

『悪の教典』 貴志祐介/文春文庫

※この記事はシミルボンからの転載です。 人間くさい悪の本質 暴力に巻き込まれたい、と思う人はいない。暴力が好きだ、なんて人は、当たり前だがまともな人間生活を送れない。やったが最後、一瞬で社会の鼻つまみ者である。 しかしフィクションの世界となる…

『チルドレン』 伊坂幸太郎/講談社文庫

※この記事はシミルボンからの転載です。 純真な心を抱えて 子どものころの純真な心は、成長していくにつれ消えていく。建前と本音を使い分け、言外のルールを学び、どんどん世間ずれしていく。悲しいかな、そうでもしないと、大人の社会では生き残れない。シ…

『燃えよ剣』 司馬遼太郎/新潮文庫

※この記事はシミルボンからの転載です。 心の中に息づく戦士 小説を読む醍醐味の一つは、自分と異なる生き方、考え方をなぞることだ。作家が生み出した豊穣な作品世界に身を任せ、登場人物の思考や行動に一喜一憂する。話が佳境となり、気持ちが入り込みすぎ…

『影武者徳川家康』 隆慶一郎/新潮文庫

※この記事はシミルボンからの転載です。 身を焦がさんばかりの渇望 徳川家康、関ヶ原の闘いにて暗殺される! この現実に最も震撼したのは、そばにいた家康の影武者・世良田二郎三郎。彼は、家康と年齢が近いだけでなく、背格好から体格、容貌に至るまで、家…

『最悪』 奥田英朗/講談社文庫

※この記事はシミルボンからの転載です。 最悪の状況に向かって落ちていく! 舞台は神奈川県川崎市近郊、主役は三人。有限会社「川谷鉄工所」経営者・川谷信次郎は、バブル崩壊の不況にあえぎながら、従業員三名の会社をなんとか切り盛りしていたが、近隣のマ…

【産経新聞より転載】『典獄と934人のメロス』 坂本敏夫 講談社

※本記事は2016年2月28日付産経新聞読書面に掲載された書評の転載です。 窮地で結ばれた信頼関係 獄塀全壊。大正12年9月1日の関東大震災によって横浜刑務所が陥った窮状である。家屋の倒壊や広がる大火災で横浜中が地獄絵図と化すなか、構内にも火の手が…

【産経新聞より転載+補遺】『羊と鋼の森』 宮下奈都著 文藝春秋

※本記事は2015年12月13日付産経新聞読書面に掲載された書評に補遺を加えたものです。 www.sankei.com 森をさまよい始めた人へ 物語は、北海道の山間の集落で育った一人の青年が、十七歳のとき、放課後の体育館で、ピアノが「森の匂い」のする音色を放つのを…

『或る「小倉日記」伝』 松本清張 新潮文庫

生き様を決めるとき 努力のモチベーションの一つは、真っ当に評価されることである。この短篇集の主人公たちはみな、自身の境遇やコンプレックスにめげず、芸術や文芸、学問の世界でひたすらに才能を燃やして己が道を進む。 しかし、それらの世界もまた清ら…

『颶風の王』 河﨑秋子 角川書店

人智及ばぬ領域を濃厚に描く 身体の頑強な青年がひとり、雪の広がる平野で泣いている。傍らにいる逞しい馬が、青年の眼からこぼれる涙を舐める。青年の名は捨造。開拓民として北海道へ向かう道中、母から渡された壮絶な手紙を読み、その衝撃に、感情を抑えき…

『疫病神』 黒川博行 新潮文庫/角川文庫

毒は毒をもって制す 裏社会を描いた作品は、主役が犯罪者だったり、めちゃくちゃな論法が罷り通っていたりと、総じて暗く、重い。本書『疫病神』もジャンル分けするならばそういったノワール小説にあたるだろう。しかしそれでは本書の持つ魅力を半分も伝えら…

『ソロモンの偽証』 宮部みゆき 新潮文庫

靄の中を生きていくために 中学時代ほど、不安定な時間はない。図体だけデカくて頭はまだまだ子供だったり、いわゆるスクール・カーストなど人間関係に苦しめられたり、コントロールに困る感情が芽生えたり、驚異的な行動力や想像力を発揮したりと、何かと身…

『孤独の歌声』 天童荒太 新潮文庫

孤独を憂う人へ贈る 本書は、タイトルどおり「孤独」をテーマに据えた小説である。孤独とは、他人との接触や関係が希薄な状態を指して使われる言葉だ。が、勘違いしてはならないのは、本書でいう孤独とは、現代的にいう「ひとりぼっち」や「集団に溶け込めな…

『私に似た人』 貫井徳郎/朝日文庫

「私に似た人」は誰か? 長らくの経済不況で、閉塞感を抱いている人は多い。貧困層の息苦しさはより顕著である。本書は、個々人のその鬱積した感情が、計画性のない小規模なテロ行為、《小口テロ》として発露し、日常化した現代日本を、十の短編、十人の主人…